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「マーベル ミッドナイト・サンズ」の感想

 以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。



前提

  • PS5版でプレイ。

  • ゲームシステムに関する感想がメイン。

  • ネタバレはない。

  • マーベルに関しての知識は、何冊か翻訳本を読んでいたり、各種ゲームをいくつかプレイしていたり、MCUを全て観ていたり、という程度。



感想

カードを用いた位置関係のバトル

 マーベルのIPを用いたタクティカルゲームだ。ミッションを選んだ後、プレイヤーは出撃するキャラクターを選び(部分的に強制されることも)、戦闘に参加する。キャラクターはコマンドを用いるのではなく、カードのプレイにより、行動を決定する。カードのプレイ権は1ターンに一定しかなく、それが終わて手番をパスすると相手が動いてくる。これを繰り返し、ミッションの目標を達成すればクリアだ。

 キャラクターのカードは事前構築型であり、探索パートやミッションの報酬で得たカードを使い、各キャラクターのデッキを組む。デッキの構築にはいくつかの制限があり、極端なデッキは組めないようになっている。


 特徴的なのは、位置関係を用いた戦闘になっていることだ。

 たとえば、直線や円形の範囲攻撃があったり、オブジェクトを活用することで、一定の範囲内の敵ユニットにダメージを与えたり、敵をふっとばして、別の敵に当ててダメージを増やしたり、といったことをする。

 これは「Into the Breach」に近い要素(実際に参考にされたタイトルの一つだと思うが)であり、このような戦闘がゲームプレイの一つの軸だ。

 ただ、率直に言ってしまえば、参考にされたゲームと異なり、本作ではそれが上手くいっていないと感じる。

 後述するアナログ空間における問題などもあるのだが、一番の問題は結局のところ、ダメージ量という絶対的な指標から逃れることができておらず、位置関係も結局、ダメージ量に還元されてしまう点が問題だと考える。

 「Into the Breach」では、さまざまな資源が存在する。味方ユニットや都市、オブジェクトに敵ユニットの体力、敵の出現穴、水といった地形などがあり、それらを活用したり、天秤にかけて、行動を決定する。

 本作では、マップにそのような多様性はなく、ほとんどのオブジェクトは結局ダメージ量に還元されてしまう。そして、それらのオブジェクトを活用するためには、コストを支払うことが多いため、回数制限と位置制限のあるダメージ変換器でしかない。その単調さが問題だと考える。


 また、位置関係を主体としたゲームとするには、それを参照するカードが少ないように感じる。「Into the Breach」では、ほとんどの攻撃で位置関係が関連し、特に相手が移動する攻撃が多い。つまり、位置関係を活用することが戦略の一つではなく、ゲームの主軸として取り入れられており、避けて通ることはほとんどできない。本作では、デッキやパーティの構成自由度が高いこともあり、位置関係の要素をさほど参照しない構成にしやすい。



アナログ空間における問題

 位置関係を使用したカードゲームはありふれている(デジタルならば今話題の「Duelyst」とか、アナログならば「ディメンション・ゼロ」など)が、それがアナログ空間で行われるのは比較的珍しいように思える。

 プレイしてみるとなぜそれが少ないかがよくわかるだろう。端的に言ってしまえば、相性が悪いように感じられる。曖昧さが大きすぎるのだ。

 カードをプレイするということもあって、時間としてはデジタルなものになっている(ターン制)。カードの効果もはっきりと読める。

 それに対し、アナログ空間は曖昧性が高い。範囲に入っているように見えてもそうでなかったり、範囲や対象が明確化しなければ確認しにくい。たとえば、『対象を後方に3マス吹き飛ばす』という効果があれば、それを考慮にいれて位置関係を操作することは容易だが、『対象を吹き飛ばす』とだけ書かれており、それがアナログな方向と距離を持つのなら、カードを読んだところで先々を読むのが難しく、一度範囲や方向を確認する必要がある。

 そして、それを考慮に入れたとしても、その範囲に明確に入っているか、というのは再び確認しなければならない。

 これが非常に面倒だ。

 本作では、カードプレイの他にも、『移動』に関する権利があり、ユニットをその権利の数(通常は1)だけ移動させることができる。そのユニットを一度移動させると次の行動を選ぶまで、自由に移動させることができる。一度止めた場所が気に入らなければ、また移動させることができるのだ。また、オブジェクトを活用した場合の攻撃の範囲なども表示されている。

 これらの仕様はユーザーフレンドリーではあるのだが、前述したアナログ空間における曖昧さを考えれば、それでも足りていないと感じる。

 ユニットを一度移動させてしまうと、そのユニットはまた移動できるが、その移動自体をキャンセルして他のユニットを移動させるといったことができない。無駄に慎重さが求められているように思う。

 たとえば、「Into the Breach」では、ほとんどの攻撃でユニットの位置関係が変化し、それをまとめて考え、詰めていく、というような「詰め将棋」にも似た遊びが導入されている。そのため、その複雑性にも関わらず、一手しか戻れないようになっており、時折、計算が狂ってしまう。それも含めてのゲーム構造であると言えるだろう。逆に言えば、それでも一手は戻せる。

 しかし、本作ではそのような遊びが実装されていない(実装されているつもりなのかもしれないが、上記のような曖昧さのために機能していない)にも関わらず、一手すら戻せない。

 これはカードドローやマリガンが存在し、不確定情報が確定してしまうがゆえだと思うが、だとするならば、そもそもアナログ空間との相性が悪い。

 全体として、他の部分でもメカニクス同士の接合が上手くいっておらず、チグハグで、設計思想が徹底されていないと感じる。



クイックやモブ、ボスやウェーブ制の単調さ

 敵ユニットにはエリートとモブのような区分があり、前者には体力があるが、後者には体力がなく、一撃で倒せるようになっている。それ自体は敵のユニット数を増やして、位置関係に意味を持たせたり、難易度調整のための実装だと思うのだが、それに対応するように実装されている『クイック』という要素があまり相性が良いとは思えない。

 『クイック』というのは、このカードで敵に止めを指すと、カードプレイ権が戻ってくるというものだ。つまり、モブに当てるとプレイ権が戻る。

 言うまでもなく、カードプレイ権は貴重なもの(基本的には1ターンに3つしかない)なので、モブにはこれを当てるのが基本になっている。いや、基本になり過ぎていると言うべきだろう。

 結果として、クイックを一定数デッキに入れて、モブにはそれを当てることがほとんどであり、戦闘の単調さに拍車をかけている。


 逆にボスは非常に体力がある。これも単純にダメージを稼ぐだけになってしまい、位置もあまり関係なくなってしまう。オブジェクトを使い切って、ただお互いに殴り合いを続けている光景は単調でシュールだ。


 ウェーブ制(増援)もあまり上手く機能していると感じなかった。

 従来のタクティカルシミュレーションゲームでは、戦闘開始地点が双方の最大の戦力であり、片方が削れてしまうと後は退屈な殲滅戦になりがち、という問題点があるのは理解できる(し、それゆえに各ゲームでいろいろな工夫が実装されている)。

 とは言え、単純にウェーブ制を導入しても、何の解決にもならない。それによって新たな価値、遊びを提供していないからだ。

 敵の戦力が逐次投入されるだけで、それを防ぐ手段があるわけでもない。敵を全滅させることが目的になることが多く、そうなるとウェーブ制にはほとんど意味がない。結局、自身のリソースを使って、死なないようにしつつ敵に最大のダメージを与えるだけだ。むしろ、雪だるま式にゲームが加速して終了することを防いでしまい、ダラダラと戦闘が長引くだけだ。

 「Into the Breach」(たびたび引き合いに出してしまい、申し訳ない)において、ウェーブ制が機能しているのは、基本的に敵を殲滅する必要がないからだし、敵の出現を防ぐ手段があるからである。

 前述したモブやボスの概念とも相性が悪く、プレイ感を悪くしている。



カードゲームやシミュレーションと、レベルの相性の悪さ

 本作では、レベル制が採用されている。これはほとんど意味がない。

 敵の強さはこちらのレベルによって調整されてしまうし、出撃していないユニットもいくつかの要素によってレベルを上がられるようになっている。そもそも、カードを強化したり、新しい(多くは強力な)カードを取得することで各ユニットを強化する要素もある。つまり、レベルによって数値は増えるが、それによってゲームの本質は変化しない。

 このような構造でレベルを導入する価値はどこにあるのだろうか。

 そもそも、限られたユニットしか投入できないことが多いシミュレーションゲームにおいて、レベル制は相性が悪い。多様なユニットがいても、結局は同じメンツを集めることになりがちで、各ゲームではその問題を克服するために苦心している(そして、対策になっていない)ことが多い。本作はマーベルというIPを使っていることもあり、ユニットが豊富だ。それとレベル制は相性が悪いし、フレーバー的にも違和感がある。

 さらに、カードゲームもレベル制と相性が悪い。レベルのような単純な数値的な指標を避けるために、カードという要素があるわけであって、それをレベルによる影響が上回るのならカードの意味がない。

 このように根幹的な相性の悪さがあるのに、頑なにレベル制を導入しているのはなぜなのか、本当に理解に苦しむ。

 そもそも、本作には数多くの難易度があり、それらを変更するのも自由だ。クリアしにくいからレベル上げということもあまり意味がなく(敵ユニットが調整されるため)、難易度を下げればいいだけだ。

 レベル制があるせいで、数値も無駄に大きくなっている(インフレしている)。ゲームの本質としては、もっと小さな数値のゲームにできるはずで、そうすることによって、シミュレーションゲームとしての面白さは増したはずだ。(本作は曖昧な点が多い中、各数値がより明確になるため)

 こういった部分もゲームデザインに関する不信感を抱かせる。



アドベンチャーパートの価値

 本作における戦闘以外のもう一つの軸が、アドベンチャーパートだ。

 拠点マップの探索や、各ヒーローとの交流ができる。

 とはいえ、拠点マップにはあまり意味がなく、スキンやちょっとしたアイテムがもらえるぐらいだ。その割にカメラワークなどがあまり良くなく、酔いやすい。単純な『鍵と鍵穴』が拠点マップには用意されているが、それがゲームの面白さに寄与しているかと言えば、疑義がある。

 しかし、各ヒーローの描写は良いと感じた。

 主人公の愛されっぷりに苦言が呈されることが多いようだが、このようなゲームである以上、多少はしょうがないことだし、JRPGに慣れているプレイヤーにとっては、それほど気にならないだろう。

 MCUとは異なる声優陣ではあるが、それが意識されている(合わせるにしても、外すにしても)ように感じるし、特にアイアンマンの演技には感じ入るものがあった。ヒーローの描写に関しても、MCUを履修している程度のニワカの筆者としては、特に問題なく、魅力的に感じる。

 いろいろと感想を述べたが、狭義のゲームとしてみた場合に、実装のチグハグさが目立ち、デザインが徹底されていないと感じるというだけであり、IPものと考えれば、総体的に十分な面白さはある。各ヒーローを楽しむゲームとしては、かなり良いゲームであると感じた。


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