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心許無い

私が毎晩飲む白い小さな粒は、殴れば粉々になってしまうだろうし、コップを倒して水浸しになれば溶けてしまうだろう。

私が毎日指を滑らせる金属の板も、投げればひび割れてしまうだろうし、お風呂に落とせば画面は真っ暗になってしまうだろう。

私の体は、高いところから落とせばぐちゃぐちゃになってしまうだろうし、川に流れていって仕舞えば動かなくなってしまうのだろう。

私は心もとないこんなものに頼って生きているのだ。誰にも頼られはしないのに。

誰からも求められないそんな存在なのに、たった一瞬で壊れてしまうそんな存在に縋って生きている。

虚しいな。そう感傷に浸っては、また小さな錠剤を流し込み、空虚な目でスマートフォンを眺めるのだ。

シュワシュワとグラスを滑り空気と一体化していく炭酸を含んだアルコール。なんだこんなもの、なんて思いながら私はそれに頼らずにはいられない。

肺を汚すためだけにあるような嗜好品も、別になくてもいいのだろうけど、緩やかな自殺行為だと思うと辞められずにはいられない。

私は弱い人間だ。そう認識することがひとつの自分を慰める行為のようになっている。かわいそうな私、それに快楽を求めている。どうにも悲しい奴だ。

人間というものは何十年も生きていくにはあまりにも脆い。そうは思わないだろうか。

この世に生を受けたその瞬間から、生きて、そして子孫を増やし、この生涯を全うして死にゆく事が定めだというのに、どうしてこんなに死にたくなるのだろうか。

私の体は常にどこかしら不調で、脳みそなんかもう薬漬けで溶けている、こんな心許ない肉体で、精神で、どうやってあと何十年も生きていけというのか。

そうか、だから私より心許ないその人類が生成した物質たちに頼るのか。

そんなどうしようもないことを、この心許ない画面に指を滑らせて書き進め、そして心許ない錠剤を飲み、煙を吐き、アルコールを摂取して、また明日を迎えるのだ。

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