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ドイツでやってみた。日本のアニメ文化でウクライナ避難民を支援

本稿は2022年8月の夏コミ(C100)で頒布されたドイツのオタク事情などを紹介する同人誌『k.press第15号』に初稿として掲載されたものです。「Note」への転載にあたりタイトル画像の追加、写真のカラー化、レイアウトなど若干変更しています。公開を承諾いただいたk.press主宰者様と羽原信義監督に感謝いたします。


「今ここにいる全員が参加できるように1ユーロから始めるぞ!」

司会者の説明に来場者の多くが手を挙げて参加を表明し開始した、チャリティー・オークション。その行く末をステージ上で見守ったのはアニメ監督の羽原信義氏でした。

彼の神妙な面持ちは、会場のいたドイツ人たちが共感するその気持ちを感じ取ってのものだったかもしれません。たとえ現地のドイツ語は分からなくても。。。


というわけで、ドイツのオタク事情をレポートしてきた筆者ですが、今回はドイツのポツダムで開催されたアニメイベント「アニメメッセ・バーベルスベルク」(以下アニメメッセ)のもようをお届けします。会場には7月15-17日の期間、1万5000人(3日間のべ)を超えるアニメファンが集まりました。

映画をテーマにしたテーマパークが会場です

その閉会式で実施されたのが、羽原監督によるイラストが出品されたこのオークションです。

少し長くなりますが、前日譚を語らせてください。きっかけは、2019年にまで遡ります。この年、筆者はフランクフルト近郊の学校で子どもたちを前に「アニメ文化は世界を平和にする」という内容の特別授業を行いました。ドイツの地元紙にも取り上げられたこの特別授業は、のちに筆者が日本に向けて日本語で紹介しました。それを読み、共感し、ご連絡を下さったのが羽原信義氏でした。同じく2019年のことです。

そこで筆者は、アニメ監督と相性のよいイベントとして2020年の「アニメメッセ」への出演を打診し、了解を得ました。しかし、コロナ禍により2020年だけでなく、翌2021年の2度にわたり開催は見送られました。一方で、アニメ文化による国際交流を途絶えさせてはいけないという思いは双方に消えることはなく、関係者一同が招聘実現を願っていました。

そして、迎えた2022年3月。折しもロシア軍によるウクライナ侵攻により、ポツダムの隣町のベルリンには連日大量の避難民が押し寄せて来ていました。

アニメメッセはというと、ポツダム市の保健当局、会場となる映画パーク・バーベルスベルクの運営者との何度目かの協議を経た結果、大規模イベント開催要件の緩和を受けて2022年7月の開催にGOサインが出たばかりでした。

そこへ突然の悲報が襲いかかります。ポツダム市がウクライナからの避難民を映画パーク内の文化施設「メトロポリス」に受け入れると発表したのです。アニメメッセのメイン会場です。コロナ禍の次は戦争によりアニメメッセの開催が危ぶまれました。

しかし、4月頭にはイベント主催者と施設運営者で、「メトロポリス」の前庭に大型テントを設営することで妥結。合わせて、希望する避難民全員をアニメメッセに無料招待することが決められました。

このことは、羽原監督にもすぐに伝えられ、コロナ禍により停滞する国際交流の復活に加えて、もうひとつの渡独理由ができました。避難民支援への協力です。


冒頭のチャリティーオークションに話しを戻しましょう。出品されたイラストは会場内で描かれました。羽原監督は会場で自身のアニメ業界でのキャリアを紹介する特別トークパネルを実施しました。パネル自体、とても貴重な情報が満載で詳らかに紹介したいところですが、紙幅の都合それはまた別の機会に委ねます。

さて、そのパネルで後半に設けられたQ&Aコーナーで質問に答えながら、描き上げたのがこのイラストです。

このアニメッセには羽原信義氏と一緒に羽原久美子氏も招聘されました。同じくアニメ監督です。羽原久美子氏はアニメーションの基礎を学ぶワークショップを開講しました。実際に課題を与えて作画を体験してもらおうという趣旨です。会場で参加者を募り、10人ほどがステージ前に用意された机で作画に取り組みました。

会場で参加者を募ったとき、ウクライナからの避難民を優先したいと司会者に伝えてもらいました、ウクライナ語で。実は司会者は戦争の前からドイツに住むウクライナ人で自身も支援活動をしていると筆者は聞いていたのです。羽原信義氏と話した結果、ウクライナの子どもたちにアニメの楽しさを知ってもらいたい、そういった意図でのアナウンスでした。結局のところ申し出る人はいませんでしたが、ウクライナに思いを寄せているという事実は司会者や来場者には届いたと思いたいところです。

チャリティー・オークションの行方はどうなったのでしょう。冒頭で売上はウクライナからの避難民の支援活動に寄付される旨が説明されました。オークションは盛り上がり、イラストを持ち帰ったのはアニメ『スパイファミリー』のヨルのコスプレをした女性の方でした。最後まで競り合った男性もまたイラストは要らないが寄付はさせて欲しいと申し出るなど、ウクライナ支援の思いは広く共有されたように思われたのでした。。。


国連の難民問題に関する機関UNHCRによると、7月26日時点でウクライナからドイツに避難した人は90万人を超えています。

ドイツで不自由な生活を余儀なくされているウクライナ人たちに、日本のアニメ文化はどういった貢献ができるのでしょう?戦争を止めることは難しいが、戦争の被害者を支援することができるのではないでしょうか?

そういった思いを関係者一同で共有し、取り組んだのが筆者にとっての今年のアニメメッセでした。筆者自身、戦争の早期集結を願うばかりですし、こういった取り組みは2度とやりたくないです。しかし、戦争が終わらない限り、支援活動を止めては行けないと決意を新たにしました。

アニメ文化が世界平和に貢献できる方法について、さらなるアイデアが求められているのかもしれません。


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