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板門店・開城へ(1)~高速道路を行く~

今回はピョンヤンを離れて遠出しますよ。

2018年の南北首脳会談で
あらためて注目を集めた板門店へ。
そう、南北分断の最前線です。

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ピョンヤンからは約200kmでけっこう遠い。
だいたい東京から静岡くらいの距離があります。
実はソウルからの方が半分以下の距離なので
ぐっと近いんですよね。

●一路、板門店へ

ツアー中に板門店訪問を組み込むと
ほぼまる一日を費やすことに。
まずは板門店の玄関口となる都市、
開城(ケソン)をめざします。

1992年に開城までの高速道路が開通する以前は
ピョンヤンから夜行列車で向かったそうで
鉄道好きにはうらやましいんですが
残念ながら今は自動車。
宿泊のホテルを朝出発し、高速道路を利用します。

市内から高速道路の入り口に近づくと
なにやら大きなゲートのような建造物が。

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まさかこれが高速道路のゲート?
と一瞬思うかもしれませんが、そうではなくて
「祖国統一3大憲章記念塔」というものです。

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民族衣装を着た2人の女性が向き合い、
統一された朝鮮全体の地図と
「3大憲章」の文字が書かれたシンボルマークを掲げます。
2人の女性は南北それぞれを表しているそうですが
「どちらがどちら」ということはないそうですw

「祖国統一3大憲章」というのは

①祖国統一3大原則
➁全民族大団結10大綱領
➂高麗民主連邦共和国創立方案

の3つで、1997年に金正日総書記が提唱しました。

ものすごく簡単に言えば、
南北が自主的に自らの力で統一問題を解決するため、
現在の南北2つの制度と政府をそれぞれ維持したまま
地域自治制を実施する連邦共和国を創建しよう…というもの。

まぁ、だから板門店へ向かう道に建てられてるという
それなりの意味もあるわけですね。
停車して見学することもあるそうですが
我々は急ぐのでスルー。

まもなく「ほんとうの」高速入り口に入ります。

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北朝鮮も高速道路の標識は緑色なんですね。
右端の標識が入り口表示。
「ピョンヤンー開城(ケソン)」
「入口 500m」とあります。

真ん中は速度制限表示。
北朝鮮の複数車線道路では
市内でも車線ごとに速度制限があります。
ここは高速道路なので最低速度制限が登場。
日本とは逆で左車線が追い越し車線なので
右車線よりも速い速度が指定されていますね。
しかし「最低」速度が100キロ制限って…
ちなみに上の4文字は「安全運行」です(笑)

左の標識は見てのとおり方向表示。
直進すると目的の「開城まで160km」、
右側から左まわりだともう一つの高速道路に接続し
「元山(ウォンサン)まで200km」となります。

●北朝鮮の高速道路

あの標識のあと、
500mはとうに過ぎたのですが何もなし。
北朝鮮の高速道路は有料道路ではないので
料金所などはありません。
いつの間にやら高速道路、です。

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片側2車線の広い道路が
ひたすら真っすぐに伸びています。
ただ、整備はあんまりマメではないようで
路面はかなりデコボコ、かなり激しい乗り心地です。

もともとこの高速道路は「速達性」を重視したのか
計画段階から直線を多く設計されています。
もう地図を広げて定規でスーッと、みたいだったのかどうか
グー〇ルマップなんかで見てもかなり直線的。
途中にはこれ滑走路かよと見間違うような場所も。

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センターラインすらありません(笑)
ほんとうに有事の際は滑走路になるのかもしれませんね。
交通量が少ないからいいけど、
これはなかなかコワい状況です。


以前の記事で
市内の自動車が格段に増えた、と書いてましたが
さすがに高速道路を走る車はまだ少ないようです。
基本的に一般市民の旅行は制限されてますし、
マイカーの個人所有も基本的にはできない。
物資の都市間流通も発達してないので当然ですかね。

さて、街はずれを走る高速道路は周囲の景色が単調で
ついつい道路標識に目が行ってしまうのでいくつかご紹介。
ちょっとマニア向けなので興味なければ飛ばしてくださいw

高速道路の出口案内。色が違うだけで
市内の標識とあまり変わりません。

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左右に出口を出てから最寄りの街までの距離を表示。

日本のような「出口あと〇km」の表示はなく
上のような表示が出たあと、いきなりコレが出ます。

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「ここですよ」みたいな感じで。
ものすごくあっさりと出口を示します。

その高速出口も
いわゆるインターチェンジみたいな雰囲気は全くなく

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突然分岐します。ただの交差点。
これ、高速出口なんですよ。
100キロで走ってたら通り過ぎそう。
途中の出口を利用するには経験と慣れが必要かと。

あと、トンネル案内がなぜか充実。

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この先のトンネルまでの距離が書かれてます。
3つとも最後の文字「굴(クル)」は「窟」。
トンネルの意味です。
でもこの標識で何が便利なのかは不明。

市町村境界の標識はこんな感じです。

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これは「鳳山(ポンサン)郡」と「沙里院(サリウォン)市」の境。
赤い斜線がある「沙里院市」がここまでで
ここから先は「鳳山郡」に入ることを表します。
これは分かりやすいですね。
このタイプの標識は、一般道路にもありますよ。

もし北朝鮮へ行かれることがあれば、
道路標識にも注目してみるとおもしろいかも。
いや、それマニアだけか(笑)

●高速道路の概念が覆る

一方クルマはウサギのごとくぴょんぴょん弾みながら
開城へ向けて猛ダッシュ。
なんせ「最低速度100キロ」ですからね。

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ドライバー氏もごきげんで飛ばします。
この調子なら200kmの道のりもあっという間、
単純計算で2時間かからないんですから。
自分もちょいと運転して飛ばしてみたくなるぞww

でも日本と違って恐ろしいのが
高速道路が自動車専用道路ではないこと

いや、バイクが走るとかそういうレベルじゃなく

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ふつうにチャリが並走してる。

そして逆走。

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さらには横断する歩行者。

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ご覧のようにガードレールもほとんどない状況なので
どこからでも立ち入り自由。

もはや近所の生活道路です。

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まぁ確かに鉄道の線路敷といっしょで
最短距離で効率的に移動できるうえに
いちおう舗装はされてるので他の道より通りやすい。
ときどきヒッチハイクなんかもあるそうです。

よく見るとトンネル内にはご丁寧に歩道が設置されてました。
もう歩行者がいること前提なのね。

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時速100キロ超の車中からの撮影はムズカシイ…


途中にはいくつも勝手な「横断道」ができてますよ。

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通るクルマが少ないので大丈夫なんでしょうけど
地元民が慣れた様子で横断のタイミングを待ってる様子は
ここが高速道路であることを忘れさせます。

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高速道路の概念を根底からひっくり返されましたね。
いや、でもやっぱり「高速」道路なんだから危ないよなぁ。
これ、夜だとマジで怖いですよね。
もっと交通量が増えればきっと変わっていくんでしょう。
今のところはこれでいいのかも。

●サービスエリアで休憩

こう周囲に何もない単調な景色と
ひたすら直進する道をひた走っていると
激しく揺れていても強烈な眠気が襲います。

最初はあれこれ話しかけてきていた案内員氏も
次々に眠りの底へと沈んでいきます。
一方ドライバー氏は安定の高速走行中。さすがプロです。
でもやっぱり適度な休息は必要。
北朝鮮の高速道路にもサービスエリアがありますよ。

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サービスエリアの予告標識。
500m先が「恩情(ウンジョン)休憩所」です。
コーヒーカップのマークが休憩所の目印。
「주」は「주차장(チュチャジャン=駐車場)」の頭文字ですね。

前方に建物が見えてきました。

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ほんっとにクルマいないな…ww


そしてほどなく到着です。
上下線をまたぐように作られた一体型の施設。
…と言っても上下線があまり厳密に分かれていないんですが。

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これが恩情サービスエリア。
以前は水穀(スゴク)という名前だったはずですが
名前が変わったみたいです。
こういう変更って北朝鮮では結構あるんですよね。
なにか大きな出来事や特別な成果があると
それにちなんだ名称に変わったりします。
ここも何かあったのかもしれません。

そして実は、ピョンヤン―開城間の200kmには
休憩所がここ1か所のみしかないんですよ。
運転者の休憩用というよりは
どうも観光客のトイレ休憩&お土産施設な感じ。
地元の運転者は適当に路肩へ停めて休めそうですしね。

その内部はというと
1階にはトイレ、3階へ上がると売店や軽食レストラン

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それにちょっとした展望スペースがあります。
まったく営業している雰囲気がありませんが
ワタシが入ろうとすると店員さんが出てきました。
いちおうは営業しているみたいですw
事前に利用の連絡がある大きな団体が来るときだけ
あらかじめ準備して対応しているようですね。

小さい団体や個人旅行者しかいないときは
駐車場に露店を出しての販売です。

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リンゴをその場で切って出してくれるのがローカルっぽく
コーヒーが入ってるポットもいい感じです。
そのほかタバコや朝鮮人参、お菓子など
いろいろなものを販売していました。

ここで15分ほど「休憩」したあと
再び板門店へ向けて出発です。

長くなってきたので、続きは次の記事で。

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