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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化6 〜ダイヤモンド・オフェンスに関連する書誌〜2.1.1~2.1.2

2. フットボールのダイヤモンド・オフェンスに関連する書誌

この章では、フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化に関連する引用・参考文献を公開する。

引用・参考文献は次のテーマである。

1. ダイナミック・システムとしてプレーヤーを理解する。

2. フットボールのダイヤモンド・オフェンスとは何か?

3. その他の集団スポーツにおけるダイヤモンド・オフェンス(バスケットボール、ハンドボール、フットサル、フットボール)


2.1 ダイナミック・システムとしてプレーヤーを理解する

2.1.1 実行ユニットとしてのフットボールプレーヤー

フットボールのダイヤモンド・オフェンスを説明する前に、フットボールプレーヤーについて説明する。フットボールプレーヤーを理解することで、フットボールという集団スポーツへの理解が進み、結果としてダイヤモンド・オフェンスの理解が深まると考える。

ダイナミック・システムとは何か?

ダイナミック・システムについては、加藤洋平氏のブログ「発達理論の学び舎」でダイナミック・システム理論の概要が説明されている。

ダイナミックシステム理論は、システム的な観点を中心に、多様な概念を織り込むことによって、発達研究の進展に貢献してきました。例えば、「自己組織化」という概念が一例です。また、人間の発達に関して、遺伝的要素から始まり、脳内神経や社会的な要素などの相互関係を念頭に置きながら、複雑なシステムを考察している点が特徴的です。

私たちの行動は、文脈や個人の発達史に基づいて、瞬間瞬間に再構築されるという考え方です。エスター・セレンは、私たちに備わるこうした動的な特性を音楽家の即興演奏に喩え、私たちの活動は、常にその瞬間に立ち現れている様々な要素と相互に影響を与えながら再構築されると述べています。


次に、実行ユニットについてはWikipediaにその概要が書かれている。

実行ユニット(じっこうゆにっと、英: Execution unit)とは、コンピュータのプロセッサの構成において、命令を実行する指示を受け、命令を実行するユニットである。

フランシスコ・セイルーロ(2002)は、プレーヤーをダイナミック・システムとして理解することを提案している。

プレーヤー:プレーヤーは、非常に複雑な構造をしており、構造間の相互作用とフィードバックによって構成されている。 

フランシスコ・セイルーロが言うように、環境とプレーヤー同士の相互作用がチームとプレーヤーのパフォーマンスに影響を及ぼす。フットボールプレーヤーは、トレーニングにおいて、技術、戦術、フィジカル、メンタルをそれぞれ分割してトレーニングをしても、それはフットボールのパフォーマンスの向上に反映されない。

伝統的なパラダイムである、分割したトレーニング(技術、戦術、フィジカル、メンタル)をするのではなく、モーリン(2006)が説明するように:

部分を分割しないで分析する、または分解せずに識別・特定することを可能にする「違いのある要素の結合」のパラダイムに交替すべきである。

これがフットボールプレーヤーが集団・組織としての「実行ユニット」である理由である。

フットボールは非常に複雑なスポーツであるので、プレーヤーとチームのプレーを最適化するには、指導者が環境とこれから述べるフランシスコ・セイルーロの「6つの構造」が相互作用することを理解し、これらを理解することで、「実行ユニット」としてのフットボールプレーヤーとチームプレーの両方の理解が深まると考える。

図1


2.1.2 プレーヤーを構成する6つの構造

プレーヤーをダイナミック・システムとして理解すると、システム理論は人間が何であるかを理解するために、構造のコンセプトと、様々なレベルの構造の複雑さを導入する。そして、常に「6つの構造」の構造間の相互作用とフィードバックから構成されていると考える。

フランシスコ・セイルーロ(2002)が提案した プレーヤーの「6つの構造」

1. 認知構造(Estructura Cognitiva): 選手がアクションの可能性を識別するために、環境から受け取る刺激を得て処理する役割を担う。継続的に現れる状況の変化に効率的かつ効果的に対応するためには、重要な情報を識別し解釈する必要がある。
2. コーディネーション構造(Estructura Coordinativa): 思い通りに自分の身体を動かす役割を担う(サッカーの技術も含む)。知覚アクションのサイクルにおいて、空間と時間への適応における動きの導入により、動きをコントロールし調整しなければならない。
3. コンディション構造(Estructura Condicional): プレーヤーの活動の発展にフィジカルのサポートを与える役割を担う構造である。コンディション構造の代表的な基本となる能力として、スピード、体力、持久力の3つがあり、その3つを手助けするのが、柔軟性とリラックスである。
4. 社会的感情構造(Estructura Socio-Afectiva): プレーヤーとチームの他のプレーヤーとの選手間の関係性を確立する役割を担う構造である。
5. 感情-意思構造(Estructura Emotivo-Volitiva): 自分自身の個人の識別を担う。基本的に主題(例:トレーニングの目的)と関係しており、自己構造化において自分自身が認識していると感じること。もし、プレーヤーがトレーニングのプロセスを信用していない場合、負のフィードバックループが発生する。これがトレーニングの進行を難しくしたり、妨げたりするため、プレーヤーが積極的にトレーニングのプロセスに参加することができるようにする(例:トレーニングの目的や内容をプレーヤーが理解できるように説明する)。
6. 創造的表現構造(Estructura Creativo-Expresiva): スポーツ活動に自分自身を投影することができる(例:トレーニングにおいてプレーヤーの創造性を妨げないようにトレーニングメニューを作成する)。

フランシスコ・セイルーロやモーリンが言うように、「違いのある要素の結合(環境と6つの構造)」が、フットボール(集団スポーツ)のトレーニングには必要であり、それはプレーヤー同士の相互作用が起こる状況を設定したものでなければならない。それがプレーヤーの「パフォーマンスの最適化」に繋がると考える。


異なる最適化

フランシスコ・セイルーロ(2002)はプレーヤーたちの「異なる最適化」を提案している:

私たちは、各個人が最適化できるようにしなければならない。生涯を通じた機能性は、それぞれの機能の遺伝的差異に応じて、不均等の様々な点を通じた異なるステップなどに応じて、「異なる最適化」が生じる。

私たちは異なる人間である。異なる環境、言語、文化で育ち、各個人の生まれながらの才能も異なるため、各プレーヤーは「異なる最適化」をする必要性があると考える。さらに、各プレーヤーが「異なる最適化」を実行するということは、フットボールの戦術やポジションも各プレーヤーの特徴を活かしたものでなければならないことを意味する。たとえ、もしフットボールのダイヤモンド・オフェンスを実行する場合でも、それは考慮に入れなければならないものと考える。


自己モデリング(自己評価)

フランシスコ・セイルーロ(2002)によると、アスリートの究極の目標は自己モデリング(自己評価)である:

その目的は、すなわち自己モデリング(自己評価)であり、自己の持っている可能性を最適化する、自身の資源を養成するために、自己に焦点を当てる。

下の図はアスリート(フットボールプレーヤー)の現在を解釈するためのものである。フランシスコ・セイルーロが提案する新しいパラダイムに対応するもので、アスリートの構造を理解するのに役立つと考える。

図2

次に、フアン・マヌエル・リージョ(2010)が言うことは、フットボールのダイヤモンド・オフェンスについての考え方を理解をするのに役立つと考える。

監督はただ単に選手たちが、とある決まった方法で傾向のあるプレーへと導くことはできる。しかしその後は試合の状況変化に対応していくのは選手たちである。

なぜなら、フットボールのダイヤモンド・オフェンスの目的は相手ディフェンスのプレーを読み、相手ディフェンスのリアクションと味方チームのプレーヤー間の相互作用によって即興プレーを創造して、相手ディフェンス組織を打ち破り、シュートチャンスを得ることだからである。

マイケル・S. ガザニガは複雑なシステムについて、彼の著書「〈わたし〉はどこにあるのか ガザニガ脳科学講義」の中でこのように説明している:

実行された一連の行動は意志的な選択のように見えるが、実は相互に作用する複雑な環境がそのとき選んだ、創発的な精神状態の結果なのだ。

フランシスコ・セイルーロはアンヘル・カッパ(2007)とのインタビューでフットボールプレーヤーのプレーの複雑さと専門性について話している:

私はフットボールとその他のスポーツをトレーニングしたことがありますが、フットボールプレーヤーのスキルにプレミアム(ボーナス)を与えるべきだと思います:なぜなら、彼らの知性、意思決定、感受性、スペースと時間の理解... どうしてか?フットボールはボールを使ってプレーし、自身のプレーに集中しながら、チームの一員としても集中してプレーをしなければなりません。そのため、フットボールプレーヤーの才能は非常に特殊なタイプだと考えます。

フットボールプレーヤーは複雑かつ特殊な環境でプレーをしている。例えば、車の運転、楽器の演奏、二人組のペアダンスも複雑なシステムであると考える。
陸上競技とフットボールを比較すると、陸上選手は自分自身のことだけに集中することができるが、フットボールプレーヤーは自身のプレーに集中しながら、チームの一員としてのプレーにも集中しなければならない。そして、フットボールプレーヤーの試合中のプレーの意思決定の大部分が無意識で行われ、マイケル・S. ガザニガが言うように、「相互に作用する複雑な環境がそのとき選んだ、創発的な精神状態の結果」であると考える。

※フランシスコ・セイルーロ:元FCバルセロナトップチームのフィジカルコーチ、現FCバルセロナメソッド部門ディレクター、大学教授。

※フアン・マヌエル・リージョ: フットボールの監督、コーチ。

※マイケル・S. ガザニガ:大学教授(心理学)


引用・参考文献


ラファエル・ポル(2017), ”バルセロナ:フィジカルトレーニングメソッド”: カンゼン:144. 148-150


Pol, Rafel (2011). ”La preparación ¿física? en el fútbol. El proceso de entrenamiento desde las cinecias de la complejidad”: MCSports: 134-136


Seirul-lo, Vargas, Francisco. "La preparación física en deportes de equipo, Entrenamiento estructurado". Valencia 2002; 10

マイケル・S. ガザニガ (2014),”〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義”: 紀伊国屋書店:177


Marca (24,11, 2007). ”Conversaciones de fútbol.”Francisco Seirul-lo: ”La preparación física no existe”: http://www.nosgustaelfutbol.com/paco-seirulo-la-preparacion-fisica-no-existe/.

Apuntes Preparación física tercer nivel FCF. 4.



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