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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化18 2.2.6 フットボールのプレー状況はカオスの縁


2.2.6 フットボールのプレー状況はカオスの縁


クラックは「カオスの縁」に存在する:

フランシスコ・セイルーロ(2000)はクラックについて、このように説明している:

クラック(天才プレーヤー)たちは、予測不可能なことをする。なぜなら、アンバランスな境地にいて、トレーニングした線形のプロセスに従わなかったからだ。非線形でオープンシステムとしてのリアクションを取るための能力が破壊されていない。だから多くの場合、監督が求めることに従わない。なぜなら、彼らにとってそれは不必要だからだ。彼らは、全てのトレーニング方法の起源である行動主義と機械論のコンセプトに基づく構造と共に生じる、刺激に変化のない反復の多いトレーニングを否定するに当たって十分に賢い。


もし、クラックが「カオスの縁」に存在するのだとしたら、例えば、メッシのようなクラックはいつも複雑なシステムの中でプレーをしていると考えることができる。


井庭と福原(1998)は「カオスの縁」をこのように定義づけている:

振る舞いが秩序からカオスへ移るようなシステムにおいて、秩序とカオスの境界に位置する領域

そのように考えると、クラックは自動的にチームメートと相互作用し、相手のプレーを読み、自己組織化することで創発が生じる。それが結果として創造性溢れる即興プレーとして現れるのではないだろうか。

クラックは常にプレー中に学習しているので、自動的に試合やトレーニング中に多くのプレーオプションを増やしていると考えることができるだろう。逆に、普通の一般的なプレーヤーは「カオスの縁」の現象が現れるプレー状況を設定したトレーニング環境を準備する必要があると考える。プレーヤーによって能力が異なるので、そのプレーヤーに適したプレー状況を作り出すことが重要である。


前の章でも触れた「異なる最適化」と「チームスポーツのための前提条件」:直感的、統合的、全体論的(ホーリズム)、非線形、協力による、質的


上記を考慮したトレーニングメニューを作成することが大事であると考える。チームにどのようなプレーヤーがいるのかを観察しなければならない。プレーヤーの発育発達段階、年齢、性差、一般的なプレーヤーが多いチームなのか、クラックがいるのか等。そのチーム内のプレーヤーにとって最適なトレーニングメニューを作成しなければならない。

「異なる最適化」を念頭に起き、プレーヤーによっては自由に制約のないプレーができるようにしなければならない場合もある。例えば、チームにメッシ、イニエスタ、クリスティアーノ・ロナウドのようなクラックがいる場合は、このようなプレーヤーたちのプレーに制約をつけるべきではないと考える。なぜなら、このようなクラックは監督が思いもしない解決策、プレーオプションを持っていたりする場合があるからだ。

逆にチームに一般的なプレーヤーしかいない場合は、「カオスの縁」の現象が現れるようなプレー状況を設定し、「チームスポーツのための前提条件」を考慮に入れたトレーニングをする必要があるだろう。また、フットボールを始めたばかりの幼少の子供達には、なるべく複雑ではない少人数によるシンプルな設定のトレーニングが効果的な場合もある。チームにいるプレーヤーを観察し、各プレーヤーのレベルを知ることが「異なる最適化」には必要だと考える。

参考・引用文献:

Pol, Rafael. "La preparación¿ física." el futbol. El proceso de entrenamiento desde las ciencias de la complejidad (2011). 49.

ポル・ラファエル. バルセロナ:フィジカルトレーニングメソッド. 翻訳:坪井健太郎. 監修:小澤一郎. カンゼン(2017). 44.

井庭崇・福原義久、1998年、『複雑系入門―知のフロンティアへの冒険』初版、 NTT出版 ISBN 4-87188-560-7

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