Kendrick Scott Oracleを見た 19.05.15

仕事とか収入とか関係なくライブは行くしCDは買う。それはもはや義務のようなものなのである。


ケンドリック・スコット・オラクルは一度見ている。フライング・ロータスの「Never Catch Me」をカバーした『We Are The Drum』のときだった(2015年、もう4年前になるらしい)。今回も新作『A Wall Becomes A Bridge』のリリースツアー、ということでよかろうか。

この新作『A Wall Becomes A Bridge』、これまでのアルバム(僕が持ってるのは『Conviction』『We Are The Drum』だけだけど)と比較してもかなり聴き心地がいい。今回の来日はレコーディングメンバー(4年前の来日は微妙にメンバーが違った)ということで期待を高まらせつつブルーノート東京へ。

4年前の来日時にもザワついた(?)左足スネア、というセットは健在。今回はシンバル2枚に、右手側にもハイハットが。こちらはペダルで操作することはなく、クラッチの操作で閉じたままハイハット的に使うか、開けたまま固定して3枚目のシンバル的に使っていた。よくクリス・デイヴとかは奇抜なセットが話題になるが、ケンドリック・スコットのセットも負けていない。むしろこちらの方が実験的な感じがする。

ケンドリック・スコットのプレイに関して、確か山中千尋のインタビューだったと思うが、古典的なジャズドラムの奏法をよく知ってる、ということを言っていたのをどこかで読んだ(『Jazz The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』収録の山中千尋インタビューでした)。

今日のライブでも両手に持ったブラシを空中で振ったり、スネアに当てた左のスティックを右のスティックで擦ったり、という演奏をいくつか見た。特に今挙げた後者の演奏を見たときは「おぉ〜」と驚嘆の声を上げそうになったほどだ(会場では実際に上がっていたかもしれない)。

奇抜なドラムセット、特殊な奏法を駆使した演奏、というところを見ていると、ケンドリック・スコットという人は、そういうアイデアの引き出しがめちゃくちゃ多いんだろうと思う。すごいドラマーを見るといつも「なんでそんなことを思いつくんだろう?」と、そのイマジネーションとアイデアの引き出しに圧倒されるのだが、ケンドリックの場合はそれがセットにも及んでいる、ということなんだろう。そのセットのアイデアというのが、音色を理由としたものというよりは「これを使うことで新たにこういうプレイが出来るのではないか」という、プレイのアイデアのためのもののように思える。


今年いくつか見てきたライブの中で、デヴィッド・マシューズ・トリオ(feat. エディ・ゴメス&スティーヴ・ガッド)と、チック・コリア・トリロジーを見たときに、めちゃくちゃすごいのに、そういうことを感じさせないさりげない演奏で、達人級のミュージシャンはやっぱすごいな、と思ったのだが、ケンドリック・スコット・オラクルもまた、すごいことをやっているのにさりげない、そういう演奏で恐れ入ったのだった。そして当たり前だがよく歌う演奏なのだ。いつもライブではドラム側の席をとってドラムを中心にライブを見る。上手くて歌うドラムだと、ドラムに見入ってしまって他の演奏があんまり耳に入ってこない、なんてことによくなるのだが、今回もモロにそうなった。それくらいケンドリックのプレイは美しく、華麗だった。

そういえばマイク・モレノのギターは、空間系の音を被せるような場面が多かった。それを聴いていて、なんとなくブライアン・ブレイド・フェロウシップを思い出した。よくよく考えてみればどちらもドラマーのリーダーバンド、編成も同じギター入りのクインテット。音楽的にはストレートアヘッド寄りのオラクルに対して、アメリカーナ寄りが強いフェロウシップ。なんだけど、根っこの部分か、あるいは目指す方向、そのどこかに、何か近いものがあるような気がする。単純に編成が同じで音色が近いからそう思えるだけかもしれないけど。

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