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【企画】ニュース三角測量 #1

『さかたのニュースまとめ』の企画として『ニュース三角測量』と題し、一つの出来事に対する各国の報道内容に注目した。
※初回であり試験的という点を了承いただきたい。

ご一読いただけると幸いである。


対象について

執筆するにあたり、対象とする〈出来事〉とそれを報じている〈メディア〉を選択する。

出来事(ニュース)

パレスチナのガザ地区などで食料支援活動を続けている国際的なNGO、「ワールド・セントラル・キッチン」は2日、ガザ地区で活動していたスタッフ7人がイスラエル軍による攻撃で死亡したと明らかにしました。
7人は、オーストラリアやポーランド、それにイギリスなどの出身だとしています。

出典:NHK

今月2日、ガザ地区でイスラエル軍が慈善団体〈ワールド・セントラル・キッチン〉の車両を攻撃しスタッフが死亡した。
このニュースを対象に、各メディアの記事を抜粋して比較する。

注目するメディア

1.ワシントンポスト(アメリカ)
2.アルジャジーラ(カタール)
3.エルサレムポスト(イスラエル) ※中道右派

記事をよむ

※英文記事に関しては、Google翻訳を元に適宜修正。

1.ワシントンポスト(アメリカ)

IDF launches inquiry into deaths of World Central Kitchen staff in Gaza strike(イスラエル軍、ガザ攻撃でのWCKスタッフの死亡に関する調査を開始) - the Washington Post
※埋め込み不可によりリンクで代用。

ワシントンポストの『イスラエル軍、ガザ攻撃でのWCK(ワールド・セントラル・キッチン)スタッフの死亡に関する調査を開始』という見出しの記事(以下、〈WP記事〉と表記)。

WP記事から以下に抜粋しているように、WCKへのインタビュー内容が冒頭にある。

有名シェフのホセ・アンドレス氏が立ち上げた食料援助非営利団体ワールド・セントラル・キッチンは月曜日、ガザ地区の従業員数名が攻撃で死亡したとの報道を受け、さらなる情報を求めていると発表した。
同団体は、攻撃容疑についてさらに詳しくわかった後にのみ、さらなる情報を共有すると述べた。
(中略)
アンドレス氏はソーシャルメディア上の声明で労働者らを「天使」と表現し、彼らの死は「イスラエル国防軍の空爆」によるものだとした。
同氏はイスラエルに対し「この無差別殺人をやめるよう」呼び掛けた

出典:ワシントンポスト

そして、イスラエル軍の声明が続く。

イスラエル国防軍は、攻撃の背後にそれがあったとは認めていないが、殺害された援助関係者らを示す写真がソーシャルメディア上で拡散し始めたことを受け、声明で「最高レベルで徹底的な調査」を行うと述べた。
イスラエル国防軍はメッセージに関する声明で、「イスラエル国防軍は人道支援物資を安全に届けられるよう広範な努力を行っており、ガザの人々に食糧と人道支援物資を提供するという重要な取り組みにおいてWCKと緊密に連携している」と述べた。

出典:ワシントンポスト

ガザ(パレスチナ政府?)側のイスラエルを非難する声も報じている。

ガザ政府メディア事務所の責任者、イスマイル・アル・タワブタ氏は会議で、「今日行われ、ガザ地区で働く外国人4人に影響を与えた虐殺を、全員が表に出て非難する時が来た」と述べた

出典:ワシントンポスト

さらに最後には、今回の攻撃でオーストラリア人スタッフも死亡したため、オーストラリア政府報道官の発言も取り上げている(省略)。

このWP記事は4月1日付(アメリカ時間)であり、WCKスタッフ死亡が判明した直後と思われる。
各方面からの情報がバランス良く取り上げられている。

2.アルジャジーラ(カタール)

アルジャジーラは『イスラエルの攻撃でWCK(ワールド・セントラル・キッチン)の従業員7人死亡』という見出しの記事(以下、〈AJ記事〉と表記)。

AJ記事では以下のように、ガザの状況や“生々しさを伝える”報道という印象を受ける。

WCKは、職員が最新の輸送品から食料をガザに届けていた際に襲撃が起きたと発表した。ガザではイスラエルの攻撃により数十万人のパレスチナ人が飢餓の瀬戸際に追い込まれている

映像には、中心街デリ・エル・バラの病院で(攻撃によって)殺害された人々の遺体が映っていた。そのうちの何人かは慈善団体のロゴが入った防護服を着ていた。

出典:アルジャジーラ

AJ記事内では、この攻撃で死亡したスタッフの遺体から回収したのであろう血のついたパスポートや遺体の写真が掲載されている。

WCK側がイスラエルを非難する声も報じている。

WCKは同地域での事業を直ちに停止すると発表した。
この空爆は、専門家が飢餓が差し迫っていると指摘するガザへの立ち入りに対するイスラエルの制限を受けて開発された海路での援助物資輸送の取り組みにとって大きな後退となった。
(中略)
(イスラエル軍と)動きを調整していたにもかかわらず、輸送隊はデリ・アル・バラの倉庫を出発する際に攻撃された」
(中略)
同慈善団体の最高経営責任者(CEO)エリン・ゴア氏は、「これはWCKに対する攻撃であるだけでなく、食料が戦争兵器として使用される最も悲惨な状況にある人道団体に対する攻撃でもある」「これは許せないことだ」と述べた。

出典:アルジャジーラ

AJ記事は死亡したWCKスタッフとパレスチナ人運転手の遺体の行方をもって締め括っている。

援助従事者(WCKスタッフ)の遺体はエジプト国境にある南部の都市ラファの病院に搬送された。
外国人の遺体はガザを離れパレスチナ人運転手の遺体は埋葬のためラファの家族に引き渡される

出典:アルジャジーラ

3.エルサレムポスト(イスラエル)

エルサレムポストの『ユダヤ人団体*1、援助関係者を殺害した攻撃に苦悩、責任の所在が分かれる』という見出しの記事(以下、〈JP記事〉と表記)。
筆者は“責任の所在が分かれる”の部分に注目した。
*1 アメリカのユダヤ人団体

以下はJP記事の冒頭文である。

ワールド・セントラル・キッチンで働き、パートナーの死を悼んだ人もいた。
ガザの人道危機がますます緊急性を増していると警鐘を鳴らしているという人もいる。
さらに、ガザ地区で援助活動家(WCKスタッフ)7人を殺害したイスラエルによる爆弾テロの責任はハマスにあると言う人、あるいは示唆する人もいる。

出典:エルサレムポスト

まずは見出しから冒頭文までに、“ユダヤ人団体によって意見が異なる”という点を伝えている。

そして、このJP記事は以下のように、強くハマスを批判している団体の言葉で締め括られている。

右翼シオニスト組織アメリカのモートン・クライン会長は、火曜日の午後早くにJTAから知らされるまでこの事件について知らなかったと述べた。
(中略)
同氏はまた、援助活動員(WCKスタッフ)の死に対する最終的な責任はハマスにあるとも述べた。
クライン氏は「私はハマスを非難します」「死者一人一人はこの戦争を始めたハマスのせいだ」「どんな戦争でも、意図せぬ民間人の死は避けられない」「戦争では間違いが起こり、目標から外れることもあります」「もし民間人の犠牲を理由に戦争をしないのならば、ハマスの圧制者が勝つだろう」と語った。

出典:エルサレムポスト


このJP記事では、ハマスに対する批判の声ばかりではなく、以下のように様々な意見があることを報じている点には注意したい。

ユダヤ人団体の声明はさまざま
食糧安全保障に焦点を当てている他の2つのユダヤ人団体も、援助活動家の死を悼んだ
世界各国で困っているユダヤ人を支援している米国ユダヤ人共同配布委員会は、「特に過去の自然災害を受けてワールド・セントラル・キッチンと協力してきただけに、この命の喪失を悼む」と述べた。

出典:エルサレムポスト

まとめ

今回取り上げた3つの記事は、報じられたタイミングが若干異なるため、単純には比較できない
しかし、報じている各国の立場が投影されているようにも見える。

アメリカは停戦とイスラエルとの関係の狭間で揺れ、アラブ諸国の一つであるカタールは停戦の仲介を行うなかで同じアラブの同胞が命を奪われている
イスラエルにしてみれば、ハマスに対する報復であり自国の安全を確保するために戦っている。

各国の立場を考えることにより、ガザ情勢の行方や落とし所が見えてくるのかもしれない。


X(旧Twitter):@sakata_takuro

Bluesky:@sakatatakuro.bsky.social

©️さかた拓郎

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