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野良のクリスマス

 クリスマスイブの夜、一匹の野良犬がトボトボと道を歩いていました。もう3日、何も食べていませんから、とてもおなかがすいています。
 
「何か、食べ物はないかなあ。」

あちこち、食べ物を探して、フラフラ歩きまわり、クンクン嗅ぎまわりますが、何も見つけることができません。どこの家でも、家族でごちそうを食べているのが、窓から見えますが、だれも野良にきづいてくれません。

「もうだめだ。おなかがすいて、目がまわる。」

とうとう、野良は、その場所にうずくまってしまいました。
 すると、どこからか、何かおいしそうなにおいがしてきました。においがするほうを見ると、ある家の庭で飼い犬が、何かを
ムシャムシャ食べています。目の前にある一枚の大きなお皿の上にはたくさんの『とりもも』がのっています。野良犬はやっとのことで立ちあがり、その飼い犬のそばまで行きました。

「飼い犬どん、おらあ腹がへって死にそうだ。
 どうか、その『とりもも』を1本わけてくれんか。」

すると飼い犬は

「ただであげることはできないな。そこで3回まわって、
   猫の鳴きまねしたら、あげるよ。」

猫の鳴きまねなんかしたことはありませんが、なんとかして『とりもも』をわけてもらおうと、野良はこうこたえました。

「3回まわって、猫の鳴きまねしたら、その『とりもも』をくれるんだな?
    ようし・・・」

野良は力をふりしぼって、ヨタヨタと3回まわると、猫の鳴きまねをました。

「バッフ。」

「ぎゃっはっはっ!猫はバッフなんて鳴かないよ。
 できなかったんだから、この『とりもも』をあげることはできないな。」

そう言うと飼い犬は『とりもも』をもう一本、ムシャムシャ食べはじめました。できないことがわかっているのに、いじわるをしたのです。
 野良はあきらめて、首をたれ、またトボトボ歩きだしました。そして村の広場の大きなクリスマスツリーまで来ると、そのままドサッとたおれてしまいました。

「ああ、もう、ほんとうに動けない。」

しばらく目をつぶって横になっていると、すぐそばで声が聞こえました。

「死んじゃったのかな?」

野良がすこし目をあけて、声のするほうを見ると、一人の女の子がしゃがんでこっちを見ています。

「あ、まだ生きてる。きっとおなかすいてるんだ。
   おかあさーん!」

そう言うと、女の子はどこかへ走って行きました。
 しばらくすると女の子がお母さんといっしょにもどってきて、野良の鼻先に一杯のスープをおきました。とってもいいにおいです。野良は舌を伸ばしてペロペロとスープを飲みはじめました。
 すこし元気をとりもどした野良が顔をあげると、まわりにたくさんの子どもたちが手に食べ物をもってたっています。
 ビスケットを二枚もった子。バナナを一本もった子。お肉を一切れもった子。干しイチジクを三個もった子。皮にちょっと身がついたバカリャウ(干し鱈)をもった子・・・ 

子どもたちが、それらを野良の前にどんどんおいて、あっという間にごちそうの山ができあがりました。
 野良はうれしくて、ありがたくて、涙を流しながらごちそうを食べました。そして元気になった野良は、子どもたちといっしょに遊んで、楽しいクリスマスをすごすことができました。

                                                         おしまい

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