読書感想 泥の河 宮本輝 再読


宮本輝の「川三部作」。蛍川、道頓堀川と読んで(実際にはAudibleで聞いて)、最後に泥の河を読み始めたら、すぐに(2行くらいで)以前に読んだことがあることに気が付きました。
特にAudibleは「会員読み放題」だし、そうでなくともマーケティング的演出露出が過剰で、メディアも覚えきれないくらいある今、「いい本だけを選別して読む」ことは逆にかなり難しい、と感じます。だから「見極めをできるだけ早くしてくだらない本はすぐやめること」、「出来るだけよい本を何度も読むこと」を意識しています。

本作は「無意識で」再読に臨んだわけですが、この宮本輝のデビュー作、はずいぶん昔に読んだのですがかなり強烈に印象に残っていて、また、最近読んだ蛍川、道頓堀川も共に素晴らしい作品で、2回目といえどつまらないはずがない。初回同様、同じような新鮮さで、とても集中して一気に読み切り、深く切ない余韻が残ったのでした。

自身の幼少期をモチーフにしたといわれるこの本の舞台は昭和30年の大阪。すでにオフィス街だったらしい中之島一体からすぐ下流に下った、河口にほど近い(多分)バラック街。昭和30年というのは戦後10年。(物語の中では)大人の男はたいてい復員兵で、往来には馬も歩きます。しかしそれが、僕が(大阪で)生まれるわずか13年前だったとは、今回改めて新たな感慨を抱きました。

宮本輝の小説は、純文学、とも言えますが、エンターテイメントでもあり、表現や文章は美しく、詩的だけれど、物語は力強く、興味を引き付けます。

これって最高なのでは。

現代小説を読み続けた後にこのような本を読むと、短編でありながら、その「文章のクオリティの高さ」「物語の構成力の高さと引き付ける魅力の強さ」にハッとします。我々は、もしくは僕は、「このような、評価の完全に確立した、素晴らし昔の小説ばかり読んでいればいいのではないか」という気にさせられます。多分それも悪くない。

宮本輝さんはまだご存命。これからも
もっともっと作品を書いてもらいたいと深く思ったのでした。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?