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Virgin Dress バージンドレス

女性が初めて、自分のために仕立てる一着を、SAKI・UEHARAでは、Virgin Dressと呼んでいます。

それは、運命の人との出会いによく似ているように思います。

運命というのは、出会いによってその形は様々で、自分を高めてくれる人との出会い、自分を大切にしようと思える人との出会い、同じ考えや志も持って共に進むことのできる仲間との出会い、まだ見ぬ自分を知ることのできる人との出会い、さまざまな人との出会いの中で、後から思えば、あの出会いは運命だったんだと思える存在。

生きていれば、そんな運命を感じる瞬間が、時としてやってくるけれど、このVirgin Dressもまた、そんな存在だと思うのです。

洋服というのは、長い間、ブランドというカテゴリーによってすみ分けされていることが多く、ブランドによってコンセプトがあり、コンセプトによって、対象の年齢層、職業、ライフスタイル・・・などいわゆるペルソナが設定され、それがブランドという大きな枠組みになって、洋服は世の中に発表されているのではないかと感じます。

しかし、私は思います。

「何かの枠組みの中にあって、ブランドを表現するための洋服」だけでは表現できない、「個性を引き出すための洋服」の在り方が、たくさん存在する洋服たちの片隅に、あってもいいのではないかと。

実際、私自身は、洋服=流行りという認識がほとんどなく、洋服=自分を表現するスタイルだと思って、日頃洋服に接しています。

確かに、流行りというのは気にはなるし、ちょっと惹かれることもあるけれど、結局のところ、ここぞ!という時には、自分を素敵に見せてくれる洋服、つまりは、流行りではなく、普遍的で自分の生き方、個性、そんなことを表現できるスタイルとなる一着を選んでしまうのです。

そんな想いから、SAKI・UEHARAでは、できるだけブランドという主張はしたくないし、あくまでも、主役はその人自身であって、その人を表現する一着を提供したいと考えています。出会う人によって、その影響が違うように、洋服もそうだと思うのです。大切にしたいことは、その人にとって、この洋服がどんな出会いになるのか、その目に見えない気持ちに寄り添っていたいということです。

その人がどんな立場の方だったとしても、どんな年齢層の方だったとしても、この場所では、私自身が感じたままに、たった一人の女性として、その人だけに集中して接していたいと思うのです。

年齢や職業という、いわゆるスペック的な情報以上に、さまざまな人生を選択する中で、今日ここに立ち寄ってくださった、その運命を大切にしていたいと思うのです。

それが、その人の本質と向き合うことだと私は信じています。

その人にはどんな人生があるのか、この小さなお店から想像を膨らませ、その人の奥行きを探っていくことが、この”SAKI・UEHARA”という場所で、私がその人に出会う意味だと思うのです。

先日、長年お世話になっているお客様が娘さんを連れてご来店になりました。成人をし、これから社会に出ていく娘さまに、自分に合ったドレスを一着贈りたいというご依頼でした。

娘さまと向き合う中で感じたテーマは、

【これから始まる人生に贈るドレス】でした。

20歳を迎えた頃の自分をふと思い出しました。

自分の夢に夢中で、その時自分の周りにいてくれた友人、恋人。小さな世界ではあるけれど、私にとってはそれらが全てで、毎日それなりに葛藤していたあの頃。もちろん自分のためにかけられるお金なんてほとんどなく、母の服を横取りしてみたり、一生懸命アルバイトをしてはお買い物に繰り出し、それなりに流行りの雑誌を読んだりしていたように思います。あの頃は、早く大人になりたくて、随分大人っぽい、背伸びをした格好をしていたように思うけど、たしかに、大人っぽい女性に憧れていたんだと思います。

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私自身が社会人になる時は、当時まったく似合わないと感じた、既成のリクルートスーツのようなものを母にプレゼントしてもらいました。一着は持っていた方がいいだろうと思ってプレゼントしてくれたのだと思います。当時、フォーマルウェアというイメージから、あまりに自分とリンクせず、形式上一着は持っているべきもの、くらいの感じで、あまりの似合わなさに、絶望したことを思い出します。結局、その後の様々な行事には、母に作ってもらった別の洋服を選び、母には申し訳ないけれど、そのリクルートスーツは一回も着用することなく、きっと今でも実家のクローゼットの奥底に眠っているような気がします。

あの頃、形式的に選ばれたスーツよりも、私が必要としていたものは、自分を素敵に見せてくれる洋服との出会いでした。

そんな記憶が思い起こされ、目の前にいる、その人(娘様)を見て、なんだかうるっとなりました。

きっと鏡の前に立っているこの女性は、ここにいるご両親や私の、知らない一面がもうたくさんあって、今を一生懸命生きているのだろう。

これから社会人になるという彼女。

今回その人(娘様)に届けるものは、一着の洋服だけではなく、経験という目に見えない贈り物なんだと私は思いました。

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自分に合わせる洋服。まだまだ、好きなものはたくさんあるし、なんでも着ることのできる年齢に、今を決めつける必要なないけれど、自分という人を装う洋服の在り方があるんだということを、知ってほしいと思いました。

そして、この服を贈りたいと願ったお母さまの本当の意図もまた、そこにあるのではないかと想像しました。自分という人間の可能性をもっと広げてほしい、気づいていない自分の魅力を知って磨き上げてほしい。そんなお母さまからの目には見えないバトンを受け取ったように思いました。

今、隣にいる友人や、大切な恋人でも知らない自分と出会うことだってあると思うし、本当に自分という個性が必要だと思う日が来た時に、そっと自分の味方になってくれる、そんなドレスを彼女に届けたいと思ったのです。

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年を重ねていく時間の中で、自分をより深く知っていく。だから同時に、他人のことを、より一層理解できるようになって、自分と人は違うんだということに気づく。

そして、どんな人にとっても、大切な今があることには、間違いなく、それは、リスペクトするべきことであって、だれかと比べた大小もないと私は思っていたい、そう思うのです。

目の前にいる一人の女性が、これから先、選び進む人生の中で、自分という存在を大切に、自信を持って生きて行ってほしい。

洋服はいつでもあなたの味方。

あなたを否定するものではなく、あなたを表現する一つなんだ、と私は信じていたい。

私にとってかけがえのないVirgin Dressは、いつでも心の奥底に存在している。だからきっと、今回お作りする彼女にとっても、そうであってほしいと願うのです。

そして、いくつになっても、自分という一人の女性を愛おしく思っていてほしい、そう願うのです。

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