大人になって

  子どものころ、おばけが怖かった。夜中の静かなトイレや、虫の声が聞こえる渡り廊下、なぜかわからないが夜中にパッチリ目が覚めてしまったとき、ぞくぞくっと体が震えた。心霊番組が入っていても、絶対に見ることはしなかった。

  それは大人になった今も同じで、絶対に心霊番組は見ない。だからと言って、子どものころのようにおばけが怖いわけでもない。あの、ふと感じるぞくぞくっとした感覚は、しばらく身に覚えがない。それはいったい、なぜなのだろうか。想像力の欠如か、現実的になったのか。

  楽しいことだってそうだ。好物を食べたとき、面白い場所に行ったとき、やっぱり子どものころのような心の動きはない。新鮮さがないのだ。

  その反面、大人になって気づいたこともある。心霊番組は一瞬の怖さだが、落語や講談の怪談噺はじわじわとした怖さがあること、ハイキングが楽しいこと、ジャスミン茶が一番美味しいお茶だということ。子どものころには、気づかなかったいろいろな魅力に気づけた。

  大人になると、やっぱり感覚は鈍くなると思う。それは経験値があがることで、ちょっとやそっとで心が動かなくなるからかもしれない。子どもの頃に好きだったものの裏側に気づいて、なんだそんなことかと冷めてしまうからなのかもしれない。いろんな理由がある。

  だから、大人になったらいろいろなものを感じとらなければいけないのかもしれない。目の前にあるものを味わい尽くすような、そんな態度で生活する必要があるのかもしれない。そうでなくては、次から次へと新しいものを探し、歩き回らないといけなくなってしまう。目の前にあるものをいかに味わい、旨味を発見するか。そんなことが大切なのだろう。

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