さっきの佐々木

さっきの佐々木

最近の記事

大人になって

子どものころ、おばけが怖かった。夜中の静かなトイレや、虫の声が聞こえる渡り廊下、なぜかわからないが夜中にパッチリ目が覚めてしまったとき、ぞくぞくっと体が震えた。心霊番組が入っていても、絶対に見ることはしなかった。 それは大人になった今も同じで、絶対に心霊番組は見ない。だからと言って、子どものころのようにおばけが怖いわけでもない。あの、ふと感じるぞくぞくっとした感覚は、しばらく身に覚えがない。それはいったい、なぜなのだろうか。想像力の欠如か、現実的になったのか。

    • 橋の重圧

      先日、仕事の関係で盛岡に行った。土曜日にあらかたの用事を終えて、日曜日には新幹線の時刻まで盛岡駅のあたりをぶらぶらと散策していた。あいにくの雨で、また前夜に盛岡に住む知人と美味しいお酒を、楽しんで疲れていたので近場でだらだらと時間を潰していた。 駅前のロータリーを抜けたところに開運橋という大きな橋がある。そろそろ駅に戻ろうと歩いていたときに、橋のたもとに開運橋の歴史が書かれてある看板を見つけた。なんでも、北上川にかかるこの橋は、1890年に当時の県知事の私費を使って

      • 肩こりから考える

         数日前、肩こりがひどかった。腕が上がらないほどではないが、左の肩甲骨の斜め奥、背骨周りの筋肉が張っているように痛かった。マッサージをしてみても、長めに風呂に浸かってみてもなかなか良くならなかった。  肩こりというと、梨木香歩さんの「椿宿の辺りに」を思い出す。まさか、自分の肩こりにも、痛みを通じた先祖から通ずる、何らかの象徴的な意味があるとは思わなかったが、じゃあ、なんでこんなに痛いんだろう、と疑問に思った。  調べてみると、肩こりは単純に痛みのある筋肉部分を揉んでも意味

        • 家族のあれこれ

          振り返ってみれば、あのときのあれにはこういう意味があったとか、あのときにはこうとしか思えなかったけど、別の意味もあったとかということに気づくことがある。そして、案外そういった出来事がターニングポイントとなって人生が変化していたりする。 それだけ人が、主観的な世界の中で生きていて、物語が常に語られ続けている存在なのだなと思う。客観的な世界ではなく、主観の中で生きている。 私は、昔、自分の家族が脆い線で繋がっているようにしか思えなかった。そんな線でしか繋がっていな

        大人になって

          不確かなままでいる力

           この前、何気なくテレビをつけると、昔話題になったテレビドラマの再放送をしていた。これはどんな話だったのかなと気になって、見ているとだんだんと話を思い出してきた。ああ、ここまでは覚えてるなあ、と思ったときに、無意識で早送りをしようとしていた。思わず、はっとした。最近、インターネット上の動画に慣れすぎていて、すべての映像作品が早送りできると思ってしまっていた。  こんなこともあった。少し前に、10年位前に完結した漫画を読んでいたとき、どうしても最終回の展開が気になってインター

          不確かなままでいる力

          新書と文庫

           この前、思い立って那須に出かけたとき、旅のおともにと思い、梨木香歩さんの「裏庭」を持っていった。読んだことはあるが、なんとなくその日の気分にしっくりきたので持っていった。  ここ数年は、旅行に行くときや仕事の関係、実家への帰省などで長時間移動するときには必ず文庫本をかばんに入れていく。あの文庫本のサイズがちょうどいいのだ。電車の乗り継ぎを待っていてかばんからすっと取り出す感じや、新幹線でうとうとしたときに前の席のポケットにいったんしまっておける感じがいい具合だ。  だか

          あの感じを言葉に

           そんなに多くは読まないが、昔から本を読むことは好きだった。有名な日本文学に手を出したり、かと思えばライトノベルや流行のミステリーを読んでみたり、なんとなくその時々の自分の気持ちにあったものを手に取っていた。しかし、エッセイだけは読んだことがなかった。おそらく、学生時代に国語で読んだくらいだ。思い返せば、その当時からエッセイや随筆は好きじゃなかった。  あるとき、何か本が読みたくて近所の古本屋に行った。手に取ったのは、梨木香歩さんの「春になったら苺を摘みに」だった。確か季節

          あの感じを言葉に

          旅に出るときの心得

           数日前にふと思い立って、那須の方に出かけた。はっきりとした目的もなく、なんとなく温泉につかりたいなと思い、その日の夜の宿を確保して電車に乗った。  行き先にもよるが、私は新幹線や特急電車よりは普通列車で旅行に行くのが好きだ(さすがに、各駅停車だけでとは思わないが)。電車に揺られながら本を読んだりうとうとしたり意外と楽しく過ごせる。乗り換えで、次の電車まで時間があるときには改札を出て駅周辺を探索するのもおもしろい。  駅から今夜の宿までは、結構な距離があった。タクシーで行

          旅に出るときの心得

          始めるより終わるほうが難しい

           少し前に、あることを諦めた。ここ数年間、自分なりに力を注いできたつもりだったが、なかなか始末がつかず、終に今の自分にはこれを成し遂げることはできないと納得した。  納得したはずなのに、そこから何日もそれでいいのかという疑問が浮かんだり、やめることにしたはずなのにそのことに関連する作業をし始めたりと、要するに未練があった。それは自分の心の中だけではなく、周りの人からどう言われるだろうか、今後どう見られるだろうかという外から発せられるものもあった(実際は、自分の心の中で起きて

          始めるより終わるほうが難しい

          蚊取り線香と昔の記憶

           私はあまり夏が得意ではない。暑さそのものもそうだけど、日差しがきつく、日焼けと日光湿疹に悩まされるからだ。それに、暑いのが苦手なくせに、喉が痛くなるのでエアコンの風も好きじゃない。この時期は、はっきり言って生きづらい。  そんな私が唯一、夏で好きなものがある。蚊取り線香だ。自宅では洗濯物に匂いがついたり、使い切らずにしけったりしてしまうので最近ではあまり炊かなくなったが、行きつけの居酒屋では毎年、この季節になると炊いている。  入り口のドアを少し開けて、夕方の昼間よりも

          蚊取り線香と昔の記憶

          自然とともに生きる

           小学校4年生くらいのときだっただろうか。ある夏の暑い日、家の裏に流れる川はどこから来ているのだろうと思い、川をさかのぼったことがあった。  家の裏の川は、川幅が1メートルから1メートル50センチくらいの小さい川だ。深いところでも、40センチくらいの深さしかない。山から湖に流れ込む小さな川で、岩魚が住んでいるきれいな川だった。よく魚を獲ったり、軽石を削って色水を作ったりして遊んでいた。  川をさかのぼり始めて、だんだんと傾斜がきつくなっていった。いかにも人が立ち入らないと

          自然とともに生きる

          悪いことはどんどん集まる

           いいことはつながらないのに、悪いことはどんどんつながっていくような気がする。  今日、どうしてもそろえなくてはいけないものがあって、この暑い中、買い物に出かけた。買い物は、思っていたよりもスムーズに、かつ、予算以内で済んだ。  しかし、帰宅してから昼食の準備をしていたときに、誤って数枚重ねていた皿をひっかけて落としてしまった。ぐしゃぐしゃになった皿を見ていると、なんだか今日一日が全部だめになってしまったような気持ちになった。  一度このモードになると、どんどん悪いこと

          悪いことはどんどん集まる

          何かを表現したい

           数ヶ月前、私なりのある一大決心をしたあと、しばらく精神的に不調だった。これまで、その決断を無意識的に避けていたので、一度決断するとこれまで見ないようにしてきたものがどっと濁流のように押し寄せてきた。  数日するとそれも落ち着き、今度は「自分は何をすればいいんだろう」と空虚感が湧き上がってきた。ここで焦って何かをしても、いいことがないというのは長年の経験からわかっていたので、最低限のこと以外は何もせずだらだらと過ごしていた。  そうしているうちに、今度は何かを表現したい気

          何かを表現したい

          誰かの楽しさに共感する

           確か、小学校5年生のときだったと思う。私の小学校は、3年生と4年生、5年生と6年生は複式学級だった。複式学級とは、人数が少ない学校で採用される学級形態で、複数の学年が同じ学級で生活をする。5年生と6年生のクラスでは、6年生が前の黒板の方を向き、5年生が右側のホワイトボードの方を向き、授業を受けていた。担任は一人なので、授業の時間は半分ずつだった。  あるとき、国語の授業で椎名誠さんの「やどかり探検隊」を読んだ。詳しい話は忘れてしまったが、小学生の兄弟2人が、夏休みを利用し

          誰かの楽しさに共感する

          夏の思い出の原風景

           10年近く前の真夏、大学時代の先生に頼まれて、その先生の実家の引越しを手伝ったことがあった。先生の実家は、古い建物で歴史が感じられるつくりだった。  大きいものは、引越し業者に頼んでいたようでこまごまとした書籍の整理が主な仕事だった。数十年も誰も立ち入っていないような、屋根裏部屋にのぼって、汗をだらだらとたらしながら本を運んだ。  とにかく暑かった。古い作りの家だったので、エアコンがなく、屋根裏部屋には熱気がこもっていた。汗で濡れた肌にほこりやが張り付き、体中どろどろだ

          夏の思い出の原風景

          食べ物と思い出

           最近、タピオカが流行っているらしい。前にもタピオカが流行ったことがあったなと思い返していると、ナタデココも流行ったときがあったなと思い出した。そういえば、ナタデココはいったい何者なのだろう。  簡単に調べてみたところ、どうやらココナッツが原料であるらしい。ココナッツミルクに砂糖や酢などと一緒に専用の菌を入れて発酵させて作るようだ。だから、ナッツ類のアレルギーの人は食べたらいけないのかと合点がいった。  いろいろな感覚を刺激するからだろうか、食の記憶は意外と鮮明だ。それに

          食べ物と思い出