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女郎屋追記 昔の家のおもしろさ

先日泊まった元女郎屋だったおうち。
とにかく意匠をうまく残した改装がほどこされていて、
よい仕上がりだった。

長野にある金具屋さんという元は湯治場だった温泉旅館は、
宮大工が仕事の閑散期に建てたという、
宮大工の遊び心満載の建物だけれど、
この女郎屋さんにも、二ヤっとしてしまうような大工さんの
遊び心が。

柱のカーブにご注目!

柱のカーブの先がふにゃんと曲がっている。
でもって、それに併せて天袋の扉もカーブしているという……。
自然を活かすというのかなんというのか。
なんと楽しい!と感心してしまう。
このカーブを活かして天袋を作れてしまう大工さんの技術も大したものだ。

前回、窓がないと書いたけれど、唯一といってよい窓はこのトイレの窓。
窓がないのは、女郎さんと恋仲になった客が脱走しないように。
さすがに二人で一緒にトイレにいけば見つかっちゃうから、
そんなことはできない。
ということで、窓があるわけだろうけれど、
つけるときは、明かりがしっかり入る様にか大きく窓がとられている。
あんどんしかなかった時代や裸電球だけだった時代を考えると、
確かに、窓の光は重要だよね、と改めて思う。

そして、妙に細長いのは、手前に男性用の便器があったからだろう。
そう思うと、あんまり大きなトイレとはいえない。
たぶん、壁が立っているところに押戸みたいなものがついていたのでは?
とこれまたあれこれ妄想。

ちなみに、トイレの扉はこんな感じ。

そして、ご商売の建物だからか、恐ろしく収納が充実している。
残念ながらあけられないようになっていたけれど、
玄関の上がりがまちは軒並み収納。

菱形の穴に指を突っ込んで扉をあける仕組みになっている。

たたきのすぐ上も収納。日本の下駄箱は、水で流せるように下駄をはかせてあるというのか、ちょっと上に上がっていて、地面との間に隙間があるパターンが多かったので、地面にベタッとくっついた収納は初めて見た。

ちなみに、反対側の床にも、やっぱり収納。
すぐ上には小さな扉があって、女郎さん達がいたと思しき部屋から
直接出入りできるようになっている。
ここに下駄をしまっておいて、外に出るときはちょっと引き出しから出して
それをはいて出たんだろうか。
ということは、番頭さんか下働きの人が女の子が出し入れした
のかもしれないなぁ。妄想が広がる。
引き出し、どれくらいの深さかなぁ……。

ちなみに、この扉はこんな感じで、かがんでやっと通れる大きさ。

部屋側から見ると、どれほど小さいかがよくわかる。

もう一つ、すごく謎だったのが、この押し入れ下の扉。

こんなところに出入り口

これは緊急避難口????
いや……表玄関から出て裏扉からお客が帰ることを考えると、
この茶の間についた小さな出入り口から、店の人達は出入りしていたのか?
ちなみに上の段の引き出しは、いざとなったら手前にものを置いて隠したりすることができそうだから、金庫がわりだったのかもしれない……。
いや、もう、家の中を探検しながら妄想が膨らみっぱなし。

そして、柱の枕元と思しき位置につけられたスイッチ。
これは、

待ち部屋のこの電気につながっていたのかなぁ。
スイッチを入れると、使用中。待ち部屋のランプが消えて、
お客さんは、自分の番だってわかる仕組み?
そうしたら、隣の部屋から気に入った子を連れてその部屋へ行く……。
用が済んだ人は、そのまま出口へ。
布団は敷きっぱなし? 敷布だけ替えて?
ある意味効率はいいが……妄想が広がれば広がるほど、
考えさせられる家。

そして、極めつけは、この天井近くに設置されたベル。

一体何に使われていたんだろう?
稚拙な私の頭では、時間超過すると電話がかかってくる
カラオケの電話みたいなものかしらんという用途しか浮かばない。
けど……なんだろう。

友人が、こうした家は負の遺産だと受け止められがちで
保存が難しいという話をしてくれた。
確かに……。妄想をかき立てられる家ではあるけれど、
ここで何が起きていたのか、と、具体的に想像すると、
積極的にとっておきたいと思う人は少ないかもしれない。
そういう意味でも、本当に貴重な家。
それを、現代に活かして使っていこうって言うのは面白い試み。

得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)