【読む映画】『炎』『1947年・大地』『とらわれの水』

インド系カナダ人監督が、故国に捧げる渾身の3部作

《初出:『週刊金曜日』2007年9月14日号(670号)、境分万純名義》

 各国で活躍するインド系監督の中でも筆頭に挙げるべき、カナダのディーパ・メータ監督による必見3部作。
 インド社会が抱える問題を抽出、物語の明暗にメリハリをつけながらクライマックスに叩きあげていき、余韻を残すラストシーンで締めくくるのが、作風の特徴だ。

 第1作『炎』は、1998年にヒンドゥ教徒過激派による上映妨害事件が多発したせいか、単純に「女性同性愛の映画」と紹介されることが多い。が、実際の焦点は、女性が婚家で受ける抑圧と、背景にある社会規範、監督によれば「ジェンダー格差のポリティクス」なのだ。

 対して、2007年度オスカー候補の『とらわれの水』(注)は、ヒンドゥ教徒の「寡婦」に対する差別・抑圧を通じて「宗教のポリティクス」を取りあげる。『炎』時を上回る過激派の妨害で一時は撮影中止に追いこまれ、その後クルー・キャストを一新して極秘に完成させた渾身の一作だ。

注 無料視聴できる URL に直接リンクできないため、会員登録する必要がある。会員には無料会員とプレミアム会員(有料)があり、後者の会費は25ドルで有効期限は100年(lifetime)。CM なし、サーバー混雑時には優先されるというメリットがある。
『とらわれの水』の視聴方法は「トップページ」の「HINDI」→「Movies」→ページトップにある検索コラムに原題の「Water」と入力。検索結果の最初に出てくる2005年作品のサムネイルを開く→視聴開始。
なお、筆者は同サイトの立ち上げ当時から長年プレミアム会員であるにすぎず、同サイトから広告宣伝料など金銭的・物理的謝礼などはいっさい受領していない。

 背景理解のために記すと、旧来の宗教的意味において、夫の安寧は妻の義務かつ責任である。『炎』に描かれる妻の断食も、こうした義務のひとつで、夫に先立たれた妻は「夫の殺人者」=忌まわしい存在とされ、多くの社会的禁忌を強いられることになる。

 もっとも、こうした抑圧の犠牲者が女性だけではなく、かつ、態様の差こそあれインドに限った問題でもないことが意識されている点にも注意したい。
 この意味で、「ナショナリズムのポリティクス」を告発するオスカー出品作『1947年・大地』は、最もわかりやすいかもしれない。

 分離独立前後のラホール(現・パキスタン)を舞台に、ヒンドゥ教やイスラームなど信仰は異なっても、親しく交わっていた若者たちの絆が、権力者の「国境線引きの都合」により、どう裂かれていったかを描くものだ。
 インド映画界の「顔」たるアーミル・カーン(2002年オスカー候補『ラガーン』製作・主演)の、瞳(ひとみ)に語らせる演技がことに素晴らしく、他者の憎悪に自らの憎悪を対抗させるシーンなど、震撼させられる。

監督・脚本:ディーパ・メータ
●アジアフォーカス・福岡国際映画祭2007で上映。
『炎』1996年/インド・カナダ合作/101分
出演:シャバーナー・アーズミー、ナンディタ・ダースほか
『1947年・大地』1998年/インド・カナダ合作/104分
出演:アーミル・カーン、ナンディタ・ダース、ラフール・カンナほか
『とらわれの水』2005年/インド・カナダ合作/118分
出演:シーマ・ビシュワース、リサ・レイ、ジョン・エイブラハムほか


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