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「底なし子の大冒険」をみて

4月末に、ずっと気になっていた舞台「底なし子の大冒険」を配信で観た。

こんなに投稿するのが遅くなった言い訳を先にすると、好きすぎて感想書きまくって収集がつかなくなったからである…。好きなものを的確に言語で表現する難しさたるや。

とにもかくにも遅ればせながら、この作品の感想、私はとっても好き!てことについて、どわっと綴る観劇の感想を記します。

拙いなりに、これ読んでまた新たに底なし子に出会う人がもしいたら嬉しいなぁと勝手に思ったり(配信は終わってしまいましたが、オーディオコメンタリー付きのDVD発売されております!以下のリンクのオンラインショップにて購入できます)


まずは「底なし子の大冒険」て何?てお方へ↓

【あらすじ】
大人のための童話作家、糸瀬はづきは母親の死をきっかけに自身が受けた虐待を題材にした『底なし子の大冒険』を書き始める…。笑いあり、涙あり、生きる力を取り戻す感動の舞台。

牧羊犬第4回本公演『底なし子の大冒険』公式サイト


正直、今まで舞台の配信をみるのは恥ずかしながら苦手意識があったけれど(やっぱり直接触れる生に勝るものはないし集中力が切れやすいから)、そういうものを観た瞬間ひっくり返される素晴らしい作品で。画面越しでもこの作品の世界観がぐっと目の前に迫ってきて息を飲んでしまった。その場で舞台を観ているような、息遣いを間近に感じられる作品だった。

観る前は、2時間13分ってとてつもなく長編だし、虐待シーンのある舞台てその重さにちゃんと目をそらさずみられるだろうかとか結構色々考えてしまったのだけど(前情報としては虐待の描写がある、ということだけは知っていた)、長さはちっとも感じさせなかった。気づいたら舞台が終わっていた、もう終わってしまうのか、と驚くくらいにあっという間に私の心を駆け抜けて、終わった後も余韻がずっと心臓に食い込んでくるような、魂を揺らしてくる物語だった。

自宅という劇場ではない場所で、集中してじっと観続けるということは、私はなかなかできないタイプなので、視聴期限ぎりぎりに購入したものの、二日間最後まで夢中でみた自分自身にちょっとびっくりした。とりつかれた、という感覚に近いかもしれない。

脚本について

私がこの作品を知ったのは作・演出である渋谷悠さんを通してであり、渋谷さんの脚本すき、みたい!てなって飛びついてチケットを購入しました。(モノステというオンラインで一人芝居を配信するイベントで渋谷さんの作品を知りました。気軽にどなたでも視聴、出演のエントリーもできるので、詳しく知りたい方はサイトをばご覧ください。)

さて、底なし子の話に戻ります。あらすじにも「笑いあり、涙あり」てあるけど本当に、みていてずっと苦しいとはならずに、思わず画面越しでも笑うような場面も随所にあることが、観ている側としてはほっと気持ち緩められて楽しかった。登場人物のチャーミングさに思わず微笑んだりも。端的にいうと一所懸命な作品の中に生きる彼らを、愛しく思い共感し、応援したくなりました。

ちなみに、渋谷悠さんの モノローグ集『穴』(一人芝居の台本)もとても素敵なのでおすすめです(めっちゃオタクの布教活動込みの感想になってしまうな…緩く読んでくださいませ)
この本に収録されている『ソクバッキー』を知っていると、底なし子を観た時についにやけてしまう(個人的な感想)箇所があって楽しいです。

次に考えさせられるシーンについて。
初めにこの作品の中で私を刺したのは、「褒められるのが苦手」という言葉でした。彼女は微笑みながら言っていたと思う(私の記憶が正しければなのだけど)、でもその言葉はひどく喉に突き刺さってきて。
この物語は無論ノンフィクションではないし、私は彼女の苦しみに、たとえ心を動かされても「わかる」ということはできない。闘ってきた彼女の姿の物語の一部を、親の呪いというものを、軽率に共感できるものではきっとないのだろう、とは思う。
それでも私の人生そのものに刺さる表現が、ことばが、いくつも降り注いできた。
「わかる」と言う言葉が、私はあまり好きではなくて、それは言うのも言われるのも、苦しくなるからかもしれない。あなたにはわからないと遠い日に言われて傷ついたことも、何がわかるんだとやつあたりのように誰かに心の中で刃を向けてしまった夜も。色んなことを思い出しました。
一人一人環境が違うのだからわからないのは当たり前だと思う、でもそれでも人はやっぱりわかりたいとかわかってほしいてどこかでは思うんじゃないかなぁとか。色々勝手にぐるぐる考えて。

これは稚拙な表現かもしれないけど、もし「あなたのためよ」と言われて苦しい思いをしたことがある人がいたら、誰かの呪いが、もうその存在から離れようとしてもその相手と今は関わりをもたずとも、なお消えない人がいたとしたら、この作品がとても、刺さるんじゃないかなあとも思ったりしました。少なくとも、私の人生にはすごく刺さる作品だった。誰かに物理的に激しい暴力を振るわれるという経験をしたわけではないから、この作品の全てに寄り添えるような、リアルとして真正面から受け取れる観客ではないと思う。でも、私はこの作品を食い入るようにみつめて、どっと魂の一部をもっていかれるように感じるほど、ただただ引き込まれてしまって、底なし子が今もそばにいてくれるんじゃないかってときどき思うくらい愛着がわいて、最初から最後まで、全部が全部また触れたいなあと思うくらいには、好きで、これからの人生にももっていきたい気持ちを沢山もらった。不思議と観ているうちに、色んな過去を引きずり出したり、端的に言えばえぐってくるような場面も多々あった。でも最後は登場人物一人一人に対して親しみが湧いていて、終わってしまうのは寂しかった。でもすごく終わり方も見事だったのだろうな、あそこで幕が下りるからの美しさなんだろうなと素人なりに思いました。(ネタバレせずに感想いうのって難しいですね‥)
最後は涙がこみあげてきてしまってもう感情がぐちゃぐちゃに渦巻いて心臓がぐらぐらと揺らされたので、未だになんと言っていいのかわからない、本当もう沢山届いて、みて、としか言えない、もはや語彙力のないオタクの感想で恐縮ですが、でもとにかく画面越しでもすさまじい熱量が伝わってくる、携わった方々の魂が心を動かしてくる作品だなあと思いました。

登場人物について

まず、童話の主人公である底なし子が底なしにかわいいです。現実の主人公の苦しみと童話がリンクする、虐待といういくらでも残酷に描く可能性をもったテーマを、実際に主人公の身の上に起きたことを底なし子が引き受けて描写されることによって、受け手側がみやすくなっているようにも感じました。(あくまで個人的見解)ファンタジーというフィルターを通してみることで、受け取りやすくなる、こちらの感情が壊れずについていける、エンターティメント性も好きでした。底なし子は、とても心にくっきりと残る、強くてやさしい子だった。痛くないはずはないだろうに、「こんなの、なんてことない」という、彼女の力強さとか、「底なし子が引き受けた!」と言ってくれるじわりと温かな熱が、今も私の中にあり続けるような気がします。
あと金魚のポーちゃんがかわいくて愉快でとても癒しでした。超細かい好みだけど、口をぱくぱくする役者さんのしぐさが私のツボでした。

それからコバエモンが、ぴりっとした空気とかしんどくなりそうなタイミングでめちゃくちゃ癒しでした。そして最後は彼のやさしさがとても胸に刺さった。この瞬間をこれから先も忘れられないと思う。私が誰かにいえなかったし、思いつくこともなかった温かい言葉の魂を、彼は軽やかに力強く投げてきたから泣いてしまった。

人に手を伸ばすことは、とても勇気のいることだと思う。助けてほしかったのに何度も振り払われてきたならば、なおさらに、もちろん当たり前だけど、辛いなんて一言では済まされないはずで、彼女の葛藤を。生き延びようと努めることは、きっと、この作品に描かれなかった部分も含めて、たくさんあるはずで、想像しえない主人公の痛みは、あるのだと思う。でも、彼女の葛藤が、物語を書きながら闘う姿が、胸を打って、それだけでくっきり消えない感情が私には沢山もたらされた。

あともし脚本を販売するならそれを読みもう一度みてまた読み、好きなセリフの箇所を論文のように引用した上でここが素敵だと述べたいくらいにはもうどっぷり、要は底なしにこの作品が好きです。(て春に書いたけど秋に発売されましたね、最初に載せたサイトで販売しているようで、嬉しい!)

音楽について

音楽はくっきりと耳に残りやすい音だったなという印象で、主人公が描く童話パートにぴったり寄り添うような、ファンタジーの世界に吸い込まれそうになる雰囲気が、とても素敵でした。

それから予告編の最後に流れている音楽が私はすごく好きでした。やさしい光みたいな音だと思って。セリフの中に滲む希望や、登場人物の背を押す、物語と音が一体となって心を照らしてくれるような感覚があって素敵でした。
あと乱暴な言い方かもしれないけれど、悲しい時にしんみりした音ではないところが私にとっては衝撃的でよかったです。音楽の鮮やかさが、この作品の重たいテーマを、さまざまな層にエンターテイメントとして届ける役割を果たしていたように思います。彩りがあって、幼い子が怖いと思いつつも、童話の表紙などに惹かれてついページをめくって、世界に引き込まれていくような感覚。

童話というものは、結構悲しかったり残酷だったりするものもあると思っていて、ただそれを読者が重く受け取り沈まないような明るさもある媒体だと私は勝手に思っているので、この作品知らん!て人もよかったらこのnoteの一番最後に予告動画を勝手ながら載せるので、どうかチラリとみてみてください。

そして何より私の思いが溢れすぎて読みづらかったであろう感想を、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます…!

この作品を思い出すたびに、私は誰かの魂に触れられるような表現者でありたいと、ひりひりする心臓のまま、臆病ながらも思っています。

忘れたくないから沢山書いてしまったけれど、まとまらない文章だけれども、そんな私の言葉に触れてくださった貴方に、ありたけの感謝を。

そしてこの作品が、もっともっと届いていきますように、誰かの気持ちがすくいとられる夜が、希望の灯が、繋がっていくことを願っています。

P.S
手を伸ばす、てきっと想像を絶するほどに勇気がいることで、うまくは言葉にだしきれないことが沢山あるけど、でも、この作品をずっと愛して、底なし子を心の中に住まわせて、これからも歩いていきたいと思います。


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