佐久田帆

さくた・はん 短歌 tanka

佐久田帆

さくた・はん 短歌 tanka

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【短歌】迷い鳩

 止血鉗子光れる棚の硝子戸にあぢさゐの花の薄き輪郭 /葛原妙子 白と決め止血鉗子は輝けりコピーの束に白妙子ゐる 名乗るたび殺される木が一度だけ文字化けできたときの言語野 抽象の雨をふらせているときに傘を持たないなんてあなたは    CLUB METRO 迷い鳩だからこんなに薄暗いライブハウスに潜っていける ステッカーまみれの壁に「寄るな」って言われたようで「来い」とつぶやく おもむろに傘を広げて土砂降りを待ちおればアイスピックが降りぬ 赤の顔、緑の顔と染められ

    • 【短歌】青い化粧

      雨粒は骨にふれれば焼けさうでさみどりに遠く遠く追ひ遣る もはや爛々とびらうどを捥ぎ取るかたへの鋭き石に黒く佇むものの 華やげるひとつ小石の行く末に火が溶けさうに措かれあるさま 白濁の羽をひらいた水差しに翳すなら手ではなく破風板を 着実に月が満ちゆく去り際のなんといふ豊かなる遠花火 一房を掴めばきみも佇んでをりしづかなる銀盤のうへ 兆しありて 前髪にいつまでも共鳴せぬ青い化粧を拭ふ 縁側に爆ぜたマシンを抱き寄せてゐるもののけものには似て非なる ぽたぽたと歩きはじ

      • 【短歌】 O I - 9

        体内に蠢く井戸に悟られぬやうにしたためておく五ヶ条 溢れ出す血を掬つては脇腹に戻す 仕事と見なされぬもの 龍角散よりコンクリートの壁が良し 喉を塞げるものの質量 穴のない針や詰まつた排気口 その両方が感じる痛み パンパンに膨れ上がつた茹で卵みたく常套句は現れてくる 茹で卵だけ残されて 後は更地になりたるやうな

        • 【短歌】昇降機

             headache 自動ドアゆるゆる閉ぢて火の中に放られたるはひとつ生首 なんといふ耳障りなる 閂が外れる音は煉獄からの 睨めずにゐる 目の前のパスタには燻された牛が列を成してて 新築の匂ひは遠くわたしにも死亡通知を届けてくれる しゅっとしたシルエットから溶けだしたカエルが瓶の底では鳴いた 人が人を食べる映画を観る吾ももはや全てに殺されたくて    6月3日 花立てを洗へば墓石もつやつやと喜ぶやうだ今日といふ日を    故障? 地下にゐる子どもをそつと

        【短歌】迷い鳩

          【短歌】まりんすのう

          あたらしき建造物のなかに措く実験動物用のふくろの 「こんなもの研究室に措くんですか」 業者ふたりが知り得ることの コンビニにつま先の向くときに ふ とためらひがちによぎる ふ くろの 風に舞ふびにいる あれはいつの日かライブハウスでみたマリンスノウ 地上にもふるのだらうかまりんすのう地下のステージには降るけれど マリンスノウひとつぶずつを見しをれば其れはいくつもの泡のあつまり ダンサーは客のあひだをすりぬけてゆくもがくやうにもがくやうに      午後に雨は止ん

          【短歌】まりんすのう

          【短歌】マッド・パフェ

          2023-06-02 近所の家の取り壊しが始まった 窓といふ窓ととびらを外された家がありもうじき逸れてゆく シルエットから一軒家は建てられて崩れるときは其の逆となる 正面といふ感覚に苦しみてをり出来るだけ綺麗に崩す 一軒家 兼 団地にて食べられるマッド・パフェには正面が無い 閉ぢこめてしまへば雨の音だから晴れた日はクロオオアリを集める 2023-05-26 五芸祭 苔むした石を日向に蹴るやうに《盲》といふ字をつかふの? きみは ヒロインとヒロインがゐる光景を引

          【短歌】マッド・パフェ

          【短歌】眼をもたぬ空

          流儀としては 辛く炒めてちさき器にちょんと盛るやきそばの 白妙のブラインド近し、ゆふぐれの街の相貌は窺ひ知れず わたしたち軸をもたずに関節で笑いあったね荷台だったね ビル街は圧しつぶされるごと建ちぬ 眼のない空に触れられてゐて

          【短歌】眼をもたぬ空

          【短歌】おほなゐ

          2023-03-25 富山県美術館 のこしたいものばかりある きつく手を握ったときの鬱血、あるいは ほんものとにせものじやなくにせものがふたつあるのだ 石膏を割る ころんぶす、こはれるときに彫像は最もひかりかがやくといふ 思考にも整理券くらいくばつてよ あとどれくらい失ふものが 蚕蛾のつくりしパジャマの肌さわり棺まとひておつ眠りはや 2023-04-02 高円寺High ひとはみな空気の膜につつまれてをりいくたびも生まれなほして さうんどすけーぷごおと おほな

          【短歌】おほなゐ

          【短歌】蟻ののたまふ

          2023-04-25 影よりもつよくゐるとは かういふこと、と蟻ののたまふ 針先を平らに詰めて銀盤をつくりてゐたりけふのかみさま 一段と匂ひのつよき部屋に居て透きとほる内臓を吊るひと あんまし、変わらないねと云ふひとにインテリアコーディネートされたし 一秒に5ミリを数ふ秒針のかたへにありしマット・マトリクス ぷりんたは染料たいぷ 手工業的なにほひの中に黒々とある 艶やかにコピーされたる鳥の 其のからだの下の下の下書き

          【短歌】蟻ののたまふ

          【短歌】spice

          めいつぱい spice ふふみ嗄れた聲をしてみる 鳥もこのやうな 冷蔵庫ゆしーずにんぐをとりいだし。 。 。 。 。  。 。ひややかな甘味 玻璃窓ゆみし若蟲の翅にある語彙のゆたかさ 音ずれのある      北陸音盤祭 かきまはす四角い函の外周にかうべを垂れてゐる ‟日本のひと„ レストランさながら順序よく並ぶしるばあのうへを渡るそうすの わたくしのかとらりいには逆さまのいもうとがゐてまるく歪んで 卒業をくりかへす夢を悪夢とは思はじ此処に横たはるよりは 予め k

          【短歌】spice