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一本でもニンジン、独身でも単身赴任

23年秋、2拠点生活をはじめて間もない頃に書いた記事です。下書きを温めているうちに幸い大阪転勤が決まり2拠点生活も終了することになったのですが、当時考えていた(いまも考えている)ことの記録として載せておきます。



単身赴任(たんしんふにん)とは、労働の形態の一つ。政府統計では、単身配偶者または扶養親族がいる人が、転勤に伴い単身で住居を移すことと定義されている。単身赴任をしている人は単身赴任者と言う。

Wikipediaより

私には、単身配偶者も扶養親族もいない。
2年半前に地方都市へ異動になったが、従って私の異動は「単身赴任」ではなくただの「転勤」ということになる。
それまで深く考えたことはなかったのだけど、ここに来てから「単身赴任」と「転勤」の待遇の違いを見せつけられて辛い気持ちになることが多くて、まあ私の我儘なのかもしれないが、ちょっとこのモヤモヤした気持ちを言語化してみようと思う。

9年前、生まれ育った東京を離れて単身大阪に「転勤」したときは、辛くなかった。
そもそも、最初の配属先が大阪だと分かっていて入社を決めた。自分の意図した転勤(正確には転職)だったのである。
住んでみたら、思っていた以上に街と自分の相性もよかった。私が生活に求める環境(人口密度、交通手段、家賃相場、飲食店やショッピングや習い事の充実度など)がちょうどよく叶えられたし、街の雰囲気や人の感じも好きだった。

何より大きかったのは、大阪で人間関係を構築できた、ということだ。私の会社は大阪オフィスにいる人の数が多いので、自部署のみならず他部署の人と飲みに行く機会も結構あって、いろんな人といろんなお店へ行っていた。あらためて考えてみても、会社の人たちとここまで公私にわたり親しくなれたのはすごくラッキーだったなと思う。
大阪にいた7年のうち半分の期間は結婚していたので、元夫から広がった人間関係も多くあった。離婚したいまでも、元夫抜きで親しくさせてもらっている人もいるし、元夫に会ってしまったらイヤだなぁと思いつつ美味しいので通い続けているお店もある。笑
この7年を通じて、大阪は実家がある東京以上に、私にとって「帰りたい場所」になった。

2021年に、いま住んでいる町に転勤してきた。
考えてみたらもう結構な年月が経つのに、こちらに来てからは、(Bさんを除いて)あまり人間関係を築けていない。もちろん仕事でのやり取りは支障なくしているけれど、それだけだ。
これは現オフィスの人数がめちゃくちゃ少ない上にお酒を飲む人がほとんどいない、というのもあるが、やはりコロナの影響が大きいと思う。
以前は地方の支社というのは、もっとべったりした付き合いだったらしい。上司を中心に毎週飲みに行ったり、若手社員はお互いのアパートに入り浸ったり。良くも悪くも、そんなかかわりの中で帰属意識が生まれていたのだろう。またコロナ前は全国の社員が集まる会議も年に2回ぐらいはあったので、そこで東京なり大阪なりに行って人との接点を作ることもできた。
今はそういうのがまったくない。地方で、ただただ「個」として切り離された状態なのだ。「個」だし、「孤」だ。
いまだに、マスクを外した同僚の顔を見慣れなくて少し驚く。

仕事のあり方が、コロナ前に戻るべきだとは思わない。
以前のような仕事の範疇を超えた人付き合いを好まない人も増えているし、オンラインがこれだけ発達したいま、お金も時間もかかるリアル集合会議を以前並みに戻す会社は少ないだろう。もし私が経営者だとしても「そこはオンラインでやってくれや」と言う気がする。

ただ、赴任先での人付き合いがなくなったからこそ、その人が本来帰属している場所、「帰りたい場所」との繋がりはもっと保障されても良いのではないか、と思う。たとえ結婚していなくても。
結婚していたらそこに帰ることは当たり前で、結婚していなかったらどこにも帰れないのは何故なんだろう。
単身赴任で来ている50歳の上司は毎月会社のお金で家族の元に帰れて、まだ給料も少ない25歳の若手社員が、たまに実家へ帰るのにも自腹を切らなくてはいけないのはどうしてなんだろう。

「子どもがいたらそんなこと甘えたこと言ってられないくらい大変なんだよ」とか「転勤が嫌なら転勤がない会社に転職しろよ」というご意見はもっともである。就活している学生も転勤を嫌がるので、全国転勤をなくしている会社も増えているらしい。
ただ、それはそれで、なんか勿体ないなと思ったりもする。
オンラインでできる仕事は増えてきたけど、それでも現地にいなくては分からないこと、通じない文脈はたくさんある。私も、ここに転勤してきて不便で辛いことも多いけど、それでもここに来なくては得られなかった経験をさせてもらっていると思う。

ここにいるのが嫌なわけじゃない。ただ、配偶者や子どもがいなくても皆それぞれに「帰りたい場所」はあることを分かってほしいし、そこから切り離されている以上、独身だってある意味単身赴任だと思う。独身だからどこにだって赴任できるよね、独身だから淋しくないよね、というのは、現代においてすごく乱暴な考え方ではないかと思うのだ。婚姻制度でくくれないパートナーシップも増えているわけだし。
既婚者並みに移動手当がほしいとかそういうことではなくて(そりゃまあくれたら嬉しいけど笑)
単身赴任、というか『転居を伴う異動』の捉え方をもっと柔軟にしていかないと、この先、適切な場所で適切な働き手を確保するのは難しくなっていくんじゃないかなあ。
それともうちの会社が旧弊なだけで、世の中はとっくに変わっているのかなあ。

そんなことを考えつつ、会社はすぐには変わらなさそうなので、8月からセルフ2拠点生活をスタートした。完全自腹だけど「帰りたい場所」に拠点をひとつ確保できたことは、思った以上に精神的安定をくれている。
これから会社も自分もどうなっていくかは分からないけど、流されすぎず抗いすぎず、自分にとって心地よい環境は何かを考え続けていこうと思う。

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