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万葉の恋 第16夜

12.14

・・・・


・・・・・どこだ、ここ?


・・家の天井じゃない


視線だけ巡らせてみる。

見覚えがなかったけど
なんとなく彼の香りがした。

三上・・
昨日、彼の声を聞いた。

じゃあ、ここ・・

考えながらも、
また、重くなってきた瞼・・


「おーい」


・・・。


「た・ち・ば・な・さん」


開いた目に映ったのは

やっぱり・・三上だった。


!!っっ

勢いよく身体を起こした瞬間、
こめかみから、真横に
突き刺さったような痛みに
声が出せなかった。

脳内の血管の音なんて初めて聞いた。
首だけでは、頭が支えられないと
判断して両手で抱えた。


「あらら、二日酔いですねぇ」


言葉がでない

声を出したら、たぶん頭が破裂する。

前のめりになっている私と
ベッドのヘッドレストとの間に
枕とクッションをつめて
私の身体をゆっくり後ろに倒す


「まぁったく。俺が今日休みで
よかったよ。」


ため息をつきながら、
前に下がった髪を指ですくい
後ろに流した。


触らないでほしいんだけど・・


ダメだ、声がだせない。

「待ってろ」


1度、寝室から出て行った彼は、
トレーを持って戻って来た。

・・・・。

コーヒーにクロワッサン
スクランブルエッグ
ベーコン、サラダが乗った
モーニングプレート

フルーツまで・・。

映画に出てきそうな
ベッドの上での朝食。


でも・・・。


「無理」

ようやく声が出た。


「は?なんでだよ」

食べたら
「・・吐く」


口を尖らせてる。

悪かったわよ・・

「コーヒーは飲む」

トレーに乗っていた
マグカップに手を伸ばす。


「熱いからな、ゆっくり飲めよ。
・・なんだよ、せっかく
頑張ったのに・・」

ブツブツ言いながら
トレーを持ったまま寝室を出て行った。


相変わらず、ドクドク波打つ血管。
でも、ゆっくり喉を通る
コーヒーのおかげで
少しだけ目が覚めた。

何もない部屋。

作り付けのクローゼットとベッド。

サイドテーブルに間接照明


彼の家に来るのは初めてだった。

まだ、知らない事があった。


「レン」

・・・。

どうして


ベッドサイドに腰掛けた彼は
マグカップと入れ替えるように
グラスを渡してきた。

「これ、飲んどけ。ほら、手、」

優しい声。


右手の平、市販の鎮痛剤を
2錠落とす。

どうして・・


「飲めるか?」


優しい目。


頷いて薬を口に入れ水を含む。


「薬が効くまで寝てろ。スマホ
ここ置いとくから、なんかあったら
電話しろよ。まぁ、そこにいるけど
声でないだろ」

声が出せない私を
なんなら、面白がってる。


どうして・・


「レン?」


自分でも驚いた。
そんなつもりは1mmもなかったのに。

立ち上がろうとした彼の袖に伸びた手。

目も合わせないまま、私は



泣いていた。


どうして、
離してくれないんだろう。
あの夜は、間違っていた。

もう、手を離してほしかった。

どうして、
そんなに優しく触るの?
どうして、
そんなに優しく名前を呼ぶの?


彼の手が涙を止める術を失った
私をゆっくり抱きしめる。


「レン、ごめんな。
手を離せなくて、ごめんな。
・・・傷つけて、ごめん」


ごめんと繰り返す彼。


ほら、こんな時でさえ、
腕の中にいる事を喜んでいる。


本当に救いようがない。


誰に聞いたら、
答えがわかるのだろう


ねぇ、どうしたら、戻れる?


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