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君の名は

【通知不可能】

・・初めて見た。

「ママ、誰?」

皿洗いの間、
次男にスマホを貸していた。
急にかかってきた電話に
10歳の息子は、即座に反応。

“通話”にして持って来た。

どうしようかな・・

とりあえず、

「もしもし」
「あっ、もしもし、私、スカイジャパンの
サカイと申します」

野太い男性の声。

「はい」
「この度、カード会社からの委託により、
未納料金の回収で、えー、
お電話差し上げました」

「はい」

「ご本人様確認の為、お名前と、あー、
生年月日をよろしいでしょうか」

「はい、夢咲くらら。
昭和54年3月3日です」

「はい、ありがとうございます。
では、今回の詳細なんですが」

「はい」

「えー」

サカイさん・・

「昨年の2月からの1年間ですね、
サイト利用料金が未納と
なっておりまして」

「はぁ」

「クレジットカードでの
引き落としとなっておりましたので、
えー」

サカイさん・・

「このままですと、クレジットカードの
ご利用が停止となります」

「はぁ」

「・・・えーっと、そのサイトが
ですね」

「はい」

「ゲームや映像配信を含めました
アダゆト、あ、アダルトサイト
でございまして」

もう、サカイさん・・

「未納料金が20万、」
「未納通知がきてないんですけど」

「はい?」

「カード会社からの未納通知書が
きてないんですけど」

「あ~・・私どもは、
カード会社ではなく、
サイト側からの委託ですので、
通知書の送付までは、・・」

「でも、カードが利用停止に
なるんですよね」

「そう・・ですね。
そう聞いております」

・・・サカイさん

「サイト名、教えて
もらっていいですか?」

「あっ、」
「ちなみにこれ、録音してますので」

「え?」

がんばれ、サカイさん

「サイト名をお願いします。
・・っていうか、ホントに
私宛なんですか?請求」

「え?」

「私宛なんですか?」

「あっ、でもこの090-●●●●-〇〇〇〇は
夢咲様の番号で、」
「違います」

気づいて、サカイさん

「え、番号、違うんですか?」
「違います」

そんな訳ないでしょ、
名簿みてるんでしょ

「あ~・・そうですか」
「一応サイト名教えて、」
・・・・・。

まだまだだな。


「ママ」

「何?」

「さっきの誰の名前?くららって」

「あぁ、なんか可愛いかなって思って」

「嘘の名前、教えたの?」

「いいのよ、あっちも嘘の名前だもん」

「・・・へんなの」

「ホントね」

「今日、カレー?」

「ん~、昨日、食べたいって
言ってたでょう。ゴハン前に
宿題終わらせて」

「はーい」




~・~・~・~


「えっ、詐欺電話?」

「ん。サカイさんから」

「サカイさんって」

「だって、そう言ったんだもん。」

「で、内容は?」

「ん?アダルトサイトの未納料金払えって」

「アダ…なんだ、それ・・大丈夫だったのか?」

「うん、大丈夫よ。色々話してたら、
向こうが逃げた」

「おおぉ、さすが、ママ」

「ふふ。そうでしょう~、でもさぁ」

「何?」

「サカイさん、すっごく下手だったのよ。
棒読みだし、途中で噛むし。
あれで、ノルマ達成できてんのかな」

「・・・そこ、考えなくてよくない?」

「・・まあ、それも、そうだ。
・・カレー、美味しい?」

「ん、んまい」

「よかった。・・・そだ、パパ」

「ん?」

「サイト、2つから増やしてないよね?」



「・・・増やすもなにも・・見てないよ」


「ん~・・パパも詐欺師には
向いてないわね」



「・・・ごめんなさい」

「いいのよ。でも、増えたら教えて。
詐欺電話に引っかからない為に」

「・・・・はい」

「あ~、なんかスタバの
キャラメルフラペチーノが
飲みたいなぁ~」

「あっ、僕が買いに行きますので」

「えっ、仕事で疲れてるのに悪いよ」

「何言ってるんだよ。ママは、
うちの財産を守ったんだから
スタバぐらい」

「そ?じゃあ、お願いしようかな。
ねぇ~、パパが今からスタバで
全員分買ってきてくれるって~」

「マジで!?」「私、あのクリームの」
「僕、新商品のがいい」

「ホント優しいパパで幸せだぁ、
ありがとパパ」


「・・・・どーいたしまして」

ふと、上げた視線の先、
ベランダ側、開いたカーテンのおかげで
真っ黒な夜に、笑顔の家族が映りこむ。

サカイさんって家族いるのかな



ホントの名前、なんて言うんだろ


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