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『列島ニュース』の味噌カツと小倉トーストのこと

 2020年4月からNHKで13時台に全国のローカルニュースをそのまま流す番組が始まった。同年2月に発表された編成計画資料はこの番組について触れてないので、状況を鑑みて、急遽設けた番組だと思われる。2020年度の番組進行は各地方局が輪番で担当していて、毎日メインのアナウンサーが変わっていたと記憶しているが、今年度からは、正式に大阪拠点局がその役を担い、武田真一アナウンサーがメインになってるようだ。武田さんが大阪局に異動になった時は憶測が飛んでいたが、放送センターに人員と役割を集中させると、なんかあったときに大ごとになりそうなので、リスク分散として武田さんほどの方が放送センター以外にいらっしゃると安心感がある。
 前記のように番組内容は、全国の放送局からお昼のローカルニュースをピックアップしてそのまま流すという様式で、本邦に住まう人々が、派手な移動を取れなくなった現下の状況において「地元の今を知る」ことができるようにという配慮もあるのだろう。
 この番組のオープニングは、画面奥の日本列島地図から各地の名物、景勝地のイラストがひゅんひゅんと飛び出てくる、というものだ。ここが気になっている。味噌カツと小倉トーストが飛び出て、番組開始後はアナウンサーの背後に置かれたモニターに映る日本列島地図の愛知県部分に、その二品が据えられ、南都の大仏、鹿苑寺金閣、富士山のイラストに囲まれている。
「他になかったのか?」
 確かに、味噌カツ、小倉トースト、いずれも愛知県を代表する名物食だ。当地で味噌ダレは「つけてみそかけてみそ」か「献立いろいろみそ」かが討論の議題に上ることもあるようだ。そもそも味噌をタレにして、いろいろつけてかけるのは、他の地方ではあまり見掛けない。小倉トーストもこの地方の喫茶店文化に付随してよく知られるようになった。「+50円で小倉をつけることができます」なんてことが書かれている喫茶店のメニューもある。スーパーマーケットのあんこコーナーの品ぞろえは、季節を問わずなかなかのものだ。東海林さだおさんはエッセイで、
「あんことパンの組み合わせはアンパンしかない」
 と書いたところ、お叱りの手紙が東海地方から届いたと後のエッセイで書いていらっしゃった(それからすぐに、では早速とばかりにトーストを焼いてバターを塗って市販のあんこを塗って召し上がり、美味しかったと感想を述べておられた。この柔軟性とスピード感はさすがだ)。それくらい愛知県を中心とした東海地方では小倉トーストが日常生活と人々の心に入り込んでいる。
 それでも、他になかったのか? と思う。あんこも味噌ダレも重い色合いだ。トーストは焼いて、トンカツは揚げて茶色になっている。派手好みという当地の印象にどうにもそぐわない気がする。それなら、代わりはなにかあるのか、と考えると。
 考えると、と打鍵してから、代わりにひゅんひゅん飛び出るに相応しいものを考え続けている。音楽を聴きながら考えているのだけれど、アルバム一枚分聞き終わった。ぴしりと当てはまる代わりが思い浮かばないのです。ぽつぽつと頭に浮かんできたものを検討すると、どれも一長一短。これは困った。
 いや、困らないか。分かればいいのだ。コメダ珈琲店が全国区の喫茶店となった今や、それら文化様態の周知の度合いが増しているように見える。列島ニュースのオープニングを切り抜いて、
「これは、どこの名物でしょうか?」
 と味噌ダレのかかったトンカツと小倉あんが塗られたトーストを見せれば、多くの人が「名古屋……、愛知か。岐阜と三重とか、東海地方でそういう風にして食べるんですよね」と全国の方々がお答えになるだろう。分かればいいし、どちらも美味しい。それでいいのです。ただ、当地のスーパーマーケットのお惣菜の串カツに、規定値で味噌ダレがかかっているのはどうにかならないかなと思うことはある。中濃ソースの気持ちの時もあるので。

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