ポルフィリン症に悩む女児「母子同服」で改善へ 漢方診療日記㉙

「ポルフィリン症」という病気がある。先天性の疾患で、詳しいことは専門書に譲るとして、とにかく皮膚を日光に当てたらだめなのだ。
 先天性ということは、子どもの患者も多い。遊びたい盛りの小学生に、「日光に当たらないように遊べ」というのは酷な話だ。特に夏はつらい。日光が強いのだ。秋の運動会の練習や本番もできるだけ、日光の露出を少なくしなければならない。仲間と同じように日なたを遊べないことで、患者も引きこもりがちな子どもになる。
 9歳になったばかりの女の子は、東北からはるばるやって来た。母親と祖母に連れられて、私の診療室を訪れたのだ。
 ポルフィリン症の治療方法に有効なものはなく、日光を遮ること、まれに脾臓(ひぞう)の摘出が試みられるくらいで決定打はない。
 例にもれず、彼女も地方の医学部付属病院で経過観察だけをして、2年が経過していた。検査結果も悪化する一方であったが、現代医学では治療方法もなく、定期検査のみで、積極的な治療はしていなかった。
 1カ月に1回行っている検査の数値が悪化することで悩んでいたとのこと。そんな折、東京の親せきが私の外来患者だったこともあり、上京したのだ。
 女児に対して一通り、望診、聞診、問診、切診を行って漢方を処方した。漢方の世界では、例えば、「ポルフィリン症には、この漢方が効く」などの病名に対する漢方を選ばない。証をたてて合う漢方を処方する。だからある人の風邪の漢方薬が、別の人のがんの薬だと言う場合もある。病名に惑わされない。母親には1カ月後に来院するように伝えた。
 ひと月後、女児とその母親がやって来た。今回は祖母はいない。母親はヒステリックに、「定期検査の値が悪いまま変わらない」と訴えた。子どもは下を向いたままだ。
 一通り、母親の不満、不安、そしてやり場のない怒りの言葉を黙って聞いた。そして母親に、診療椅子に座るように促した。一瞬、戸惑ったが、母親は素直に漢方の診療を受けた。私が漢方を母親に処方したい旨を伝えると、素直に従った。そして、ひと月後来院するように伝えた。
 ひと月後、落ち着いた表情の母親と娘が来院した。娘の検査結果が改善し出したというのだ。その後、2年が経過したが、軽快状態にある。
 漢方の世界には「母子同服」という言葉がある。子どもを漢方で治療する時に、子どもだけではなく、母親にも同時に飲まさなければならないという教えだ。母親のストレスが、少なからず子どもの病態に影響しているという教えだ。
 今回も、子ども本人の漢方より、母親の漢方が効いたかもしれない。母親と子どもは、見えない気でつながっている。

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