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手乗りインコのピー太 (創作物語)

第1話 出会い

 「優太、起きなさい。学校に遅刻するわよ」
「ボク、今日は学校休む」
「えっ、また学校でイヤな事あったの?お母さん仕事に遅刻しちゃうから、もう行くけど・・・いいわ、今日は家にいなさい。学校に連絡しておくから」

 優太は、小学4年生。
 お父さんは今年の春から単身赴任をしているので、普段はお母さんと二人暮らし。
 体が小さい方で幼く見えるせいもあって、クラスの子から、よくからかわれる。

 昨日の下校中も赤ちゃんの話題になったとき、
「優太、お前、まだ母ちゃんのおっぱい飲んでるんだろう。バブ~」
と一人が言うと、
他の数人も「バブ~、バブ~」と笑いながら言った。

 優太は、何も言い返さない。
言い返して、もっとからかわれるのがイヤだから言い返せない、と言った方が本当の気持ち。


 「ボクは赤ちゃんじゃないさ。今小さくたって、これからウ~ンと大きくなるんだ。そうだよね、ピー太」
 お母さんが仕事へ出かけた後に、優太は布団から出てリビングに来ると、ピー太に話しかけた。

 ピー太は、ヒナから育てた手乗りのセキセイインコ。
 2年前お父さんとデパートのペットショップへ行ったとき、きれいな色のセキセイインコを見ていたら、優太は、どうしても飼いたくなった。

 「それならヒナでなくて、大きくなったインコを飼えばいいだろう。ヒナからだと育てるのが大変だぞ。それに、どんな色のインコかも、今は未だ分からないんだから」
お父さんが言った。
 ヒナを買って帰っても、結局世話をするのは、お母さんになるだろうと思ったから。

 それでも優太は自分で育てるからって言い張って、お父さんを納得させた。
 こんなに真剣で強情な優太は初めてだったから、お父さんも優太の言うとおりにしてみようと思った。

 ヒナを育てるための小さい水槽、ワラ、餌にするアワ玉・・・、お父さんがペットショップの店員さんに聞いて、必要なものを買い揃えた。

 ヒナを小さな箱に入れてから、手提げ袋に入れて、店員さんが優太に渡した。

 ヒナの入った袋を優太は慎重に受け取り、電車でも人にぶつからないように気をつけて大事にヒナを持ち帰った。


 「ヒナの名前は何にする?インコに”ピーちゃん”って名前付ける人、多いみたいだぞ」
お父さんが言った。
 優太は、しばらく考えて
「ピー太にする」
と言った。
「まだ、オスとは決まってないぞ」
「でもピー太にするんだ」
「優太とピー太か~。仲良しって感じでいいかもな」


 お父さんとお母さんの心配をよそに、優太はピー太の世話を自分で一生懸命した。

 朝はいつもより早く起きて、餌のアワ玉を小さいスプーンでピー太の口へ持っていって食べさせた。
 ピー太が上手く食べられないときは、アワ玉を2、3粒指でつまんで、ピー太の口に入れてあげた。


 そうしてピー太は少しずつ毛も生えてきて、胴体が白で、羽がきれいな水色のインコに育った。

 優太が教えなくても、どこで覚えたのか、ピー太は色々な言葉を話せるようになっていった。

 今ではピー太は、優太の大親友で心の支え。


「ピータ、ダイスキ。ユータ、カナシー。ユータ、トモダチ、ホシー」
ピー太は、優太の心の言葉が分かる。
「そう、ボクは友だちが欲しいんだ。でも平気。ピー太がいるもん。今日は学校休んだからケージを掃除してあげるよ」
優太はピー太をケージから出して、掃除を始めた。

 ピー太は、嬉しそうにリビングを2周飛び、台所の方へ一直線に飛んでいった。

 『ピー太が流しの洗剤で遊んだら大変だ!』
急いで台所へ行った優太の息が、一瞬止まった。
 台所の小さい窓が開けたままだった。
お母さんが閉め忘れたのだろう。

ピー太の姿が見えない。
 「ピー太!出ておいで、ピー太!」
優太の目に涙があふれた。


 それから1週間が過ぎても、ピー太は帰ってこなかった。
優太は部屋の窓から外をずっと眺めていた。

 「ピータ、ダイスキ。ピータ、サビシー」
ウトウトしている優太の耳に、ピー太の声が聞こえた。
「ピー太!帰ってきてくれたんだね!」
優太は急いで窓を開け、ピー太に向かって手を差し出した。
「そうだよ。ずっと寂しかったよ。カラスに食べられちゃったのかもしれないって思ったら、ボク・・・」
優太が泣きそうな声で言った。すると、
「ヨッシー、ヤサシー。ヨッシー、サビシー」
「ヨッシーって、ピー太を助けて面倒をみてくれていた人なの?」

 そのとき、優太の家のドアホンが鳴った。
「優太、学校のお友だちよ」
お母さんが呼ぶ声がした。
『ボクに友だちなんていないよ・・・』
そう思いながら玄関に行くと、そこにはクラスで1番体が大きい、いじめっ子の芳紀(ヨシキ)が立っていた。

 「ピー太が窓から飛んで行っちゃったから、オレ、急いで追いかけてきたんだ。そしたら、この家の窓に入っていったのが見えて・・・ピー太は優太のインコだったんだ」
 優太が、うなづいたとき、ピー太が飛んできて肩に止まった。
「ピータ、ダイスキ。ユータ、カナシー。ユータ、トモダチ、ホシー」
そう言うと、ピー太は芳紀の肩に飛んだ。
「ヨッシー、ヤサシー。ヨッシー、サビシー」と言った。 


 「ピー太が、うちの窓から突然入ってきて、オレの肩に乗ったときはビックリした。前にインコを飼ったことあるから、餌のやり方とか知ってたし・・・ピー太も他に飛んでいかなかったから・・・飼い主は心配しているだろうって思ったけど、オレもピー太と一緒にいたくて、飼い主を探さなかったんだ。ごめん・・・」
 クラス1番のいじめっ子の芳紀が、申し訳なさそうに頭をさげている。
「ピー太を助けてくれて、ありがとう」
「優太1週間ずっと学校休んでただろ、ピー太がいなかったからか?」
優太が黙ってコクンとうなずいた。

「またピー太に会いに来ていいか?」
そう芳紀に言われて、一瞬優太はビックリした。
「オレの弟、病気で入院ばかりしてて、母ちゃんは、いつも弟に付きっきりなんだ。一人で留守番してるとき、ピー太が一緒にいてくれて、オレうれしかった」
体が大きくて、いじめっ子の芳紀がしんみりとした顔で話した。
「もちろんだよ。芳紀君はピー太の命の恩人だもん」
その言葉を聞いた芳紀の顔が、パッと明るくなった。
「オレ、今まで優太のことからかってばっかりで・・・」
「うん・・・」
「オレのこと、ヨッシーって呼んで!ピー太も、そう呼ぶんだ」
「ヨッシー!ヨッシー~」
優太の肩に止まっているピー太が、歌うように言った。
二人は、お互いを見つめながら笑った。
「ピータ、ウレシー、ピータ、ウレシー。」
そう言って、ピー太は二人の上を飛び回った。

第1話おわり
©作良子

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