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邦キチー1グランプリ『スーパー!』

 あの『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』『ザ・スーサイド・スクワッド』の監督ジェームズ・ガンのかつての作品。上記2作と同じくジャンルはヒーロー映画であるが、暴力と血にまみれた変化球極まりない映画になっている。


・主人公のフランクは人生で完璧だった瞬間が2つしかない男→→→おおよそヒーロー映画の主人公にふさわしくない根暗な男で、作中では何度も「キモい」ヤツ扱いされる。

・そのうちの一つは今の奥さんと結婚できたことだったが、当の奥さんはケビン・ベーコン演じるヤクの売人ジョックに寝取られて、フランクのもとを去って行く。

・妻を失った寂しさを埋まるためにペットでも飼えばとアドバイスされるが、「僕に飼われたら可哀想だ」というネガティブ極まりない理由で断るフランク。

・一念発起してサラを取り戻そうとジャックの元に乗り込むが彼の仲間にボコボコにされてしまうのだった。

・絶望のどん底に落ちたフランクだったが、そんな時神の声(絶対に幻聴)が聞こえてくる。神の啓示(おそらく妄想)を間に受けたフランクはアドバイスの通りにヒーローになってこの世の悪を懲らしめることを決意する。→→→神の啓示を受けるシーンは、フランクの肉体に幻覚の触手が巻き付く異様な画になっている。ヒーロー映画を見ているはずなのに、太り気味の中年男性が触手プレイを受ける凄まじい映像を見せられて思わず唖然としてしまう。

・神の意志を受け取ったフランクは、自分の手で真っ赤なコスチュームを作る。正義のヒーロークリムゾンボルトとして活動を開始する。→→→素人が作った衣装なので、あちこちツギハギだらけでどう見てもヤバい人にしか見えない。


・当然、特殊能力を持たないただの人間であるフランクは、丸腰でヒーロー活動をすることに早々に限界を感じる。試行錯誤のうちにデカいレンチを武器にすることに決めた。→→街の犯罪者たちをレンチで襲撃し退治していくクリムゾンボルト。頭部をレンチでぶん殴るという残虐極まりない手段で犯罪者たちを始末していく彼の姿に、これがヒーロー映画かよと見ていて引いてしまう。


・コミックブックショップの店員リジー(演じるのはエレン・ペイジ)に正体を突き止められるが、彼女は”ボルティー”としてクリムゾンボルトのサイドキックに立候補する。

・ジョックの手下と偶然出くわしてひと悶着起こすが、彼らを車で撥ねたうえで「脚が粉々!」と爆笑するボルティー→→→サイドキックのはずなのに、クリムゾンボルトを超えた残虐ぶりを見せるボルティー。思わずドン引きするフランク。

・ついにジョックのアジトにカチコミすることを決めたフランクとリジーだった。通常、アクション映画でカチコミする前の武器や装備を揃えるいわゆる”準備のシークエンス”は見ていて燃えるシーンが多いが、この映画でのそれは銃器ショップでご機嫌なBGMをバックにして、銃器を買い占めていく見るからにヤバい人たちに姿になっている。

”準備のシークエンス”
『コマンドー』でいうとガッチャン、ガッチャンと銃器やナイフを装備していき最後はデェェェンと大仰なSEが鳴るやつ

・クライマックスのカチコミシークエンスは凄惨の一言。爆発や銃撃のシーンでアメコミ的な擬音がバンと画面にポップする演出は悪趣味きわまりない。


 
 このように散々凄惨な暴力が描かれる本作ではあるが、意外にも最後はホロリと泣けてしまう不思議な作品だ。
 情けなかったフランクが容赦のないクリムゾンボルトに覚醒していく様子には、ドン引きするともにもっとやれクリムゾンボルトと応援してしまう自分がいた。
 自分の人生は無意味だと自虐する彼が最後に得た答えには、劇中で流れた血の分の価値はあると思う。

 また、ヒーロー、暴力、キャラの立った過激な登場人物に泣けるドラマと『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』『ザ・スーサイド・スクワッド』でも見られる要素が散見されるので、彼の過去作として鑑賞するのも面白い。この『スーパー!」今ではすっかりメジャーな映画監督となった彼の萌芽でもある作品だ。





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