『舞台』西加奈子

 強烈な自意識との戦い。共感できる部分は多々ありつつもフィクションだろと思うほど(フィクションなんだけど)自意識が過剰な主人公の様を見ていると一歩引いてしまってコメディのようにしか読めなかった。それが作者の意図するところだとしても、なまじ共感できるようなところがあるだけにもっと入り込みたかったなというのが本当のところ。なんとなく、本当に全然なっていないかもしれないけどなんか作者が左脳で作っているような気がしてしまった。作られたようだと感じてしまったようだった。まぁごく主観的な感想です。そこらへんがコメディチックに感じたのかもしれないし、ひょっとすると作家とキャラクターの性別が乖離しているからそう感じたのかもしれない。
 
 ただ、そうは言ってもその分、読みやすさやコミカルさにつながっている。自意識過剰なほど他人の目を気にする。カッコつけようとしている姿や調子に乗っている姿をことさらに忌避し、演じることを忌み嫌いながらもそれから逃れることができない。この物語はありのままでいろというのではなく、演じること自体を肯定する。仮に全てをさらけだすことで楽になるとしても、みんなに望まれる自分を提供するために演じることはある。そこから生まれるギャップによる苦しみは仕方がない。それでもその苦しみは自分にしかわからないものである。人のためについた嘘で自分だけが苦しみを抱え込むことはある意味当然のことで、自分がそうなりたいと考えた結果でしかない。
 
 なんというか誰か助けてくれよって思ったりすることもあるけれど、自分自身でその苦しみを隠そうとしている以上、矛盾しか孕んでいなくて、今まではどうすればいいのかわからなくてその場で堂々巡りを続けるしかなかったけれど、本作を読むことによってsの苦しみを背負うこと自体が肯定されて、少しだけ楽になったような気もする。
 
 ただやっぱりどこまで言ってもこの物語と自分との間には薄皮一枚隔てられたような距離があるような気がしていて、さらっと通り過ぎてしまったような感覚がある。読んでいる際の状況かもしれないけれどそれがどうにも残念。

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