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「東大怪談」を読んで〜隙のない恐怖のこわさ〜

 ショッピングモールに向かう車中で聞いたラジオでこの本の存在を知りました。“恐怖”について語るラジオ対談番組「事故物件住みます芸人 松原タニシの恐味津々(きょうみしんしん)」で松原タニシさんと対談されていたのが豊島圭介さんでした。東大出身者11名にインタビューした怖い体験の話が11話まとめられています。ちなみに豊島さんも東大出身という経歴。聞き手と語り手の双方が東大出身者という特異の怪談本の紹介でした。 

「体験もすごいですが、その人の人生そのもののが壮絶すぎて。フォーカスの当て方が、事象からその人の人生に変わったんです。」

ラジオから流れたこの言葉に心惹かれ、到着したショッピングモールの本屋で速攻購入しました。

 とにかく文章が読みやすく、一気に読んでしまいました。聞き手も語り手も日本最高学府、やっぱ凄いです。語り手は、自身の体験を経緯、事象の説明、自己分析、私感と簡潔明瞭に語られています。どの語り手も自身の体験を客観的視点で冷静に分析されているので、とにかく伝わりやすく、理解しやすい。そして聞き手もさすが東大出身!各章ごとに“東大ポイント”という豊島さんのコメントと各語り手のアンケート調査の結果の記載があります。これがまた面白く、唸りました。さまざまな角度から冷静沈着に分析された隙のない内容となっています。こんな本は今まで見たことなかったです。

読んでみて、

「体験もすごいですが、その人の人生そのもののが壮絶すぎて。フォーカスの当て方が、事象からその人の人生に変わったんです。」

まさにこの言葉通りでした。目次だけでも面白いので書き残しておきます。数年後に読み返しても、私は題名で内容を思い出せると思います。それくらいどれもインパクトありました。

第1話 東大病院で怪異に遭遇した男
第2話 牛人間に呪われた男
第3話 汚部屋そだちの東大生
第4話 オカルト新聞記者
第5話 精霊に愛された女
第6話 東大中退の男
第7話 救世主になった男
第8話 時空の隙間に落ちた男
第9話 細胞生物に乗っ取られたコンサル
第10話 パラレルワールドに行った官僚
第11話 トラウマプロデューサー

私が特に衝撃を受けた章を3つに絞って紹介します。

●第7話 救世主になった男 「早かったね」

小さい頃から天才と言われて育ったTさんが、統合失調症と診断され、精神科病棟に入院した時のお話。
同じ病棟に入院していた障害があり、あーうーと唸るしか発声ができない男性との不思議体験。何回か同じ空間で過ごしていたある日突然「早かったね。」と彼から声を掛けらる。そこから冗談や難しい話など会話が弾むようになっていったが、自分の病状が回復していくと会話ができなくなってしまった。
不思議な話ですよね・・・。看護学生時代の精神科病棟実習を思い出しました。患者には、私にはわからない別の感覚があるんじゃないかって感じたことがあります。妄想、幻聴、幻覚・・確かに症状として定義はありますが、人間はこの社会に適応していくために、何か大事な感覚を削ぎ落としていってるのかもしれないとふと思いました。Tさんの病状が回復し、この社会に戻り始めたら、会話ができなくなっていくところが衝撃的でした。Tさんは、芯から純粋で繊細で感受性の高い方なんだろうと思います。壮絶な人生を送るTさんへの豊島さんからの愛情溢れるエールが東大ポイントから読み取れました。

●第2話 牛人間に呪われた男「アーメンの手」

 義理の父に虐待を受けていた綿谷さん。
「再婚相手はクリスチャン。神様にお祈りを捧げたその“アーメンの手”でよく僕を殴りました。」この淡々とした語りが、すごく怖くて衝撃でした。さらにそんな怖い場所で、“牛人間”を見るというダブル恐怖体験を綿谷さんはされます。そのままトラウマになっていくかと思いきや、大人になった今もこの恐怖の地に通っているという綿谷さん。得体のしれないモノ(牛人間)と現実の恐怖(虐待)とが混ざり合った怪談・・・とにかく混乱した章でした。

●第11話 トラウマプロデューサー「親父の親指」

この章は、語り手飛田アポロさんの人生そのものが本当に怖い(大変申し訳ありません。)。有名な大阪歓楽街の飛田新地で育った飛田アポロさんが、なぜ東大を目指したのかが、この「親父の親指」の章で語られています。小四の夏休みのお父さんの仕事を手伝うという夏休みの宿題から、「こんな街、脱出しよう。勉強してこんな仕事に就かなくていいようにしよう」と人生の決意をするところ。ここから、さらに壮絶な人生を送っていくのですが・・・。ここの章は、もはや怪談ではないかもしれません。この飛田アポロさんの人生そのものに目が離せなくなり、ドラマ以上の恐怖が散りばめられた展開に息がつけないくらいでした。

 

唯一無二の怪談本「THE.東大怪談」:私の感想

 私がイメージする東大出身者は、官僚や政治家を目指すエリート・人生順風満帆で苦労知らず・・。私とは別世界に生きてる賢い人というものでした。この本を読むまでは・・。順風満帆どころか、壮絶な人生そのものは本当に聞き応えがありました。必死で生きるために、経験した事象を、自分で分析し納得させ、前に進んでいる。それが人生だと、しっかり「生きている」11名それぞれの物語がありました。聞き手の豊島さんが同じ東大生であることも、語り手側にとっては安心して語れる要因だったのでしょう。豊島さんが、“東大ポイント”で私感と解釈に可能性を加えられるので、語りがさらに立体化され影が付くような感じ。その影は読者の私に余韻という形で入ってきて、じわ〜と染み込んでくるというか・・何日経っても覚えている怖さ。本当に怖い。
 怪談とは、一つの語りのツールなんですね。あっ、豊島さんがラジオで言われていました“怪談はコミュニケーションのツールだと”・・、なるほど、言葉の意味がよくわかりました。
 怪談のジャンルではあるが、唯一無二のジャンル「The 東大怪談」。続編を熱望します。


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