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『ほんものの魔法使』読んだ本 ご紹介!

ポール・ギャリコ著『ほんものの魔法使』
あらすじ

魔術師が住む秘密都市マジェイアにやってきた青年アダム。魔術大会に出て魔術師名匠組合へ加入すること。それが彼の望みでした。事前審査、予選で彼が披露した、彼いわく「ただの魔法」は、見る人を驚愕させます。
原タイトルにある magic には魔法という意味の他、奇術・手品の意味もあります。マジェイアに住むのは手品師たち。そしてアダムは魔法使いでした。
マジェイアでは魔法はご法度、魔法使いも処罰の対象です。
アダムの魔法のトリックを知ろうとする者、排除しようとする者。そして迎えた本選で彼が披露した魔法。手品ではなく魔法だと扇動され、暴徒と化した観客たちがアダムに殺到する……という話ですが、最後の危機的な状況を、なるほど。人間はそうだよなぁと思わせる展開で締めます。

主な登場人物
アダム 
純粋で、人をほとんど疑いません。マジェイアに住むのは自分と同じ魔法使いと思っています。
モプシー
アダムの連れた毛むくじゃらの犬。ものを言う犬ですが、話が分かるのはアダムだけ。人間より人間に詳しく、彼に一番感情が入りました。
ジェイン
市長の娘で、街にやってきたアダムと知り合い、助手になります。モプシーとも仲良し。アダムに大切なことを教わります。
ニニアン
のっぽでへっぽこな魔術師。おどおどして臆病、ある意味もっとも人間味がありますが、物語の最後で彼が見せる姿には、ちょっと感動すら覚えます。弱さを認めることが強さだと知った彼が向かうのは……?
ロベール
市長で魔術師名匠組合議長。ジェインの父。
マルヴォリオ
組合審査員で反ロベールの筆頭。アダム排除の罠を仕掛けます。
フスメール
マルヴォリオの手下の一人で書記長。大した役どころではないのですが、アダムの魔法で持って行かれたものが面白いので。カツラじゃないよ。

魔法の箱
物語の中盤、アダム、モプシー、ジェイン、ニニアンの四人がピクニックに出かける場面があります。そこでアダムがジェインに語った言葉。引用してもいいのですが、ここはぜひ物語とともに味わっていただきたいと思います。アダムからジェインという形を借りた、作者ギャリコからのメッセージと感じました。特に創作をされてるnoteの方々なら響くものがあるのではないでしょうか。P176から177にかけての言葉です。ぜひ読んでみて下さい。ここでは「魔法の箱は誰でも持っている」と書くに留めておきます。
この章の魔法についての言葉は、ギャリコの思想なのかもしれません。本物の魔法とは? そんな問いかけが聞こえてきそうです。

最後に
ファンタジー小説ですが、人が人らしく描かれており、物語に入りやすいです。アダムの魔法に対する人々の思惑にそれがよく出ています。
あくまで手品と思い込み、もてなして秘密を知ろうとするロベール。一方魔法と気づき、そんなものを持ち込まれては自分たちが廃業だから排除しようとするマルヴォリオのように、新しいもの、未知のものに、近づくか反発を覚えるかというのはよくあることです。
またラストシーンを主人公でない人物たちに託したのも、物語の余韻が続くという点で見事だと思います。

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