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『ねこはしる』読んだ本 ご紹介!

工藤直子著『ねこはしる』
あらすじ

雪国の山の合間の小さな村に生まれた黒い猫、名前はラン。内気で動作がのろく、何をやってもビリ。他の兄弟のように猫として生きるための訓練をしてもなかなか身につかず、一人で練習することに。池に水を飲みにいって出会った魚。池にたった一匹で住む魚とラン。春、夏、秋を過ごすうちに二匹は心を通わせ、友達になり互いに成長していきます。しかし魚の存在が兄弟の猫に知られ、満月の夜に魚とり競争が開かれることになります。兄弟順番に魚を捕ろうとします。魚は傷を負いながら懸命に戦い、そしてついにランの番が回ってきて……というお話です。

友への言葉
魚は運命を受け入れ、覚悟を決めており、前日に自分の決意をランに話しています。その時の言葉に心を打たれました。僕は原文でその思いを感じていただきたいと思いながら、いつもレビューを書いています。ここでもその思いは変わりませんが、あまり伏せすぎるとかえって伝わらないこともあると思い、特に心に響いた文章を引用します。ご自分でも読んでみたいと思われた方は、飛ばして読んでいただくようお願い致します。

友達のランに自分を食べてほしい。そう語った後のこの言葉、

「……きみになら……ともだちのきみになら
(たべられる)のじゃなく
(ひとつになる)気がするんだ
おれ アタマも ひれも 心も
きみに しっかりとたべてもらいたい
そうすることで おれ きみに
……きみそのものに なれると思う

童話屋 工藤直子『ねこはしる』P112

心も。ハッとしました。生きるものは皆、植物、動物問わず命を頂いて自分の命をつないでいることはよく言われることですが、心という発想がありませんでした。確かに生き物には心があるでしょう。それも頂いているのです。ふと僕は思うのです。人間に他の生き物を犠牲にしてまで生きる価値があるのか。もちろん自分にもそんなことを思います。でも生きている以上はそうせざるを得ない訳で、せめてこれからはより深く「いただきます」「ごちそうさま」と感謝を感じようと思います。

ランと魚の思い
これはもうぜひ本で読んでいただきたいです。力を振り絞った後の二匹の思い。同時に発せられた言葉。彼らの思いが心に深く響いて、涙がにじみました。今、これを書くために読み直しても、ちょっとうるっときます。

最後のページ、三行なのですが、余韻が残ります。そうだといいな。二匹の思いを胸に、ちょっと空を見上げたくなるような締め括りです。
作者の工藤直子さんは詩人。本書も詩のような散文で綴られますが、余計な飾りのない文章で流れがとてもよいです。ランや魚目線の主観で書いた後、同じ場面を彼らの周りの風や花、蛙や木などの目を通して客観的に語ることで、彼らが言葉にしなかった思いまで伝わってきます。この手法、素晴らしいですね。

最後に
文庫サイズの小さな本ですが、読み終えると自分の手の平に命が乗っているように感じられる素敵な本です。命のこと、ランや魚の思い、その後の彼らにぜひ思いを馳せてみて下さい。

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