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夜明けの鏡11(オリジナル小説)

私はあの男達が言っていた、青木町の古ビルに向かった。一刻も早く着きたかったから自転車で向かった。気が焦る。

後から気がついたんだけど、あの玉の力を使えば、一瞬で着くんだった。それくらい気が焦っている。焦る気持ちに言い聞かせるように私は冷静になるように、自分に何度も何度も繰り返し言い続けた。気がつくと古ビルに着いた。私は足跡を立てないように古ビルの入口に向かった。鼓動が激しく全身を揺さぶる。
入口に着き、私は身をかがめ作戦を考えた。
相手は何人いるかわからない。そうだ。玉の力を使えば。

しかし、安易に使って、その反動で尚輝や真希や静佳を傷つけてはいけない。
私は意を決して自分が立てた作戦を実行することにした。

「私は如月かの子です!そこに私の夫と友達がいるはずです!私はあなたがたの言う通りにしますから、彼らを解放してください!」

私の声が古ビルに反響する。その中から一人の男が出てきた。後ろには何人もの人がいる。
暗闇でよく見えない。

「かの子さん、ようこそ、我々の世界へ。我々は平和の為にあなたを必要としている。さあ、こちらへ。」

私は言われるままに入口に降りてきた男について行った。古ビルを何回か昇り、広い部屋へ出た。

一人の男が椅子に座り、周りを数えきれない程の男達が取り囲むように立っている。

「私の夫と友達はどこですか?早く解放して下さい!」

私は心臓が口から出るくらい緊張していたけど、早く助けないといけないと勇気を振り絞った。

「おっと、かの子さん、勘違いしてもらっては困る。これは契約だ。あなたが我々の組織に協力すると言うまでは彼らは解放できない。協力していただけますか?」

男の声はビルの壁に反響している。暗闇の中顔が見えないだけに不気味だ。

「なんの協力ですか?あなたがたは平和と言ってましたが、どういうことをしようとしてるんですか?」

私の声が緊張して震えているのが自分でもわかる。男は椅子から立ち上がり、手を大きく広げて言った。

「平和ですよ。この世は不公平すぎる!きれいな水を飲む赤ん坊がいると思えば、泥水をすするしかない赤ん坊もいる!汚い手で大金持ちの奴もいる!そして政府をみてください、彼らは不正まみれで人々の幸せなど考えていない!
我々はそのような連中に鉄槌を喰らわす為の組織です。あの偉大な方の下で。」

男はそういうと再び椅子に腰掛けた。
私は緊張で口の中がカラカラだったけど、懸命に言った。

「鉄槌って人を殺すんですか?それにあの偉大な方っ誰ですか?」

「小田洋平という教授を知りませんか?哲学者の。その方の我々は門弟です。それに心配する必要はありません。我々は殺しはしない」

男は静かにそう言った。古ビルの壁に反響する、その声はより不気味に感じる。

小田洋平さんなら私も知っている。時々テレビやネット等で出演され、とても温和な感じで、とても素晴らしいことを説かれている。しかし、その小田洋平さんがこんなことをするだろうか?私は疑念を持ちつつ、男に言った。

「本当に小田洋平さんの門弟の方々なんですか?信じられません。小田洋平さんがこんなことするなんて。」

「かの子さん、疑うのはわかる、しかし、我々は本当に小田先生の門弟だ。その証拠をみせたら協力してくれますか?もちろん小田先生にも会わせます。」

男がそういうと突然、まぶしい光が私に向けられた。私はその光で一瞬目がくらんだ。
光が徐々に男達に向いていく。よく見るとそこには全員が真白いスーツをまとった大学生くらいから中年くらいの男達がいた。
その男達を目の当たりにして私はますます戦慄を覚えた。

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