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夜明けの鏡6(オリジナル小説)

翌日、私は尚輝と二人で病院に向かった。前日に電話できちんと精密検査をしていただきたいとお願いしたら、主治医の先生は快諾してくれた。

病院に行くまでの道のり、私はいろんなことを考えていた。内気な自分のこと、そんな自分に親しくしてくれる真希や静佳のこと、そして、こんな自分を好きになってくれた尚輝のこと。そんなことを考えていたら、病院に着いいた。

「かの子、僕は受付を済ませておくから。後は待合室で待ってるから。終わったら来て。」

尚輝が笑顔で言った。私は黙ったままうなずいた。
そのまま、私は病院に入り、診察室の前の椅子に腰掛けた。
主治医の先生が来られた。私は立ち上がり、軽く会釈した。

「かの子さん、お待ちしてました。さあお入り下さい。」

主治医の先生はそう言いつつ、私を診察室に招き入れた。私は先生の質問に答えて、その後、様々な検査を受けた。
結果は2時間程で出るらしい。本当なら翌週だが、先生が配慮してくれた。

私はそのまま尚輝のいる待合室に行った。
なんだか緊張して胸がドキドキする。待合室に着きドアを開けると尚輝は笑顔で私にこう言った。

「大丈夫だった?先生はなんて?」

「配慮していただいて本当は翌週なんだけど、2時間後に結果がわかるって。」

私がそういうと尚輝はまた笑顔で

「そう、じゃあ、一緒に待とう。」

そういうと立ち上がって、自動販売機に行った。あたたかいペットボトルのココアとお茶を買って、また私の元に戻ってきた。

「かの子はココアだね。はい。」

そう言って私にココアを渡してくれた。私は何故かコーヒーが飲めない。飲むと、とてもしんどくなる。
私はココアのあたたかさと少しほろ苦い甘さに気持ちがホッとしていくのを感じた。
尚輝はゆっくりお茶を飲みながら、スマホでいろいろと確認をしていた。

二人とも黙ったまま、時間が過ぎていく。時計の音がやたらといたずらに響く。
時間が過ぎるのがとても長く感じる。
まるで、音の世界に引き込まれるように感じる程長く、何故か怖い…。
やがてペットボトルの中身も無くなった。

ペットボトルの中身が無くなって、だいぶ経った時、看護師さんがこられ、私達を呼びに来られた。
長い廊下を歩き、通り過ぎる人達に会釈しながら私は診察室に着いた。

尚輝がドアをノックする。

「どうぞ、お入り下さい」

先生の声が聞こえた。

「……失礼します。」

そういうと私は尚輝と診察室に入った。
先生に招かれ、私と尚輝は席に着いた。

「かの子さん、結果から申し上げます。病気は完治しています。どこも異常はありません。」

「……えっ。」

私はそういうだけが精一杯だった。

「かの子さん、病気は治ったんですよ。よかったですね。おめでとう。」

先生は優しく微笑んでそう言った。

「かの子、よかったね!治ったんだよ。元気になったんだよ!おめでとう!」

尚輝がそう言って私の手を握りしめてくる。

「わ、私、私……治ったの……本当に治ったの?治ったのね!」

私がそういうと先生は優しく微笑んで、うなずいた。

尚輝はすごくうれしそうに先生に何度も会釈しながら言った。

「先生!本当にありがとうございます!」

「いや、私も不思議なんだよ。どうして病気が治ったのか。でもどこにも異常は無い。再発の怖れもありません。かの子さん、頑張ったね。」

そう言って、また優しく微笑んだ。

「先生、私、私、ありがとうございました。私……私。」

そのまま私は泣いてしまった。私の鳴き声が部屋中に響く。
その中で、先生と尚輝の笑顔が私を優しく包んでいた。


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