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夜明けの鏡3(オリジナル小説)

かの子の日常

私はそれから1ヶ月程入院した。医師によると原因もわからないし、なんの病気かもわからない。心配して真希と静佳もお見舞いに来てくれた。

「大丈夫だよ。また元気になったら、どこか3人で行こうね。」

と私は強がって言ったけど、不安はとても大きくて、それが2人に伝わっているようだ。

「かの子、無理しないで。心配な時は素直にそう言って。」

真希が言う。

「本当にそうだよ。不安ならずっと一緒にいるからね。」

静佳もそういう。

2人の気持ちは嬉しかった。でも、それを上回る不安。入院してからも私は心臓が鷲掴みにされるような苦しみと脳が何かに食い荒らされるような苦しみに襲われていた。

1ヶ月経って、そのような症状が無くなったから、様子をみながらという条件で私は退院した。退院してから、私はより内気になった。
これを内気と呼んでいいのかわからないけど、人が怖くて外にも出られなくなった。

私は昼間は人がいると思うだけで、何故かとても怖かった。人の気配、人の声がとても怖かった。

それからは尚輝がずっと、ご飯の用意も家の用事は全部する。私は申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、知らない間に昼夜逆転してしまった。

尚輝が起きないように私は一番端の部屋に1人でいるようになった。何もすることもなく、
うつろな表情の自分が映る鏡をただ見つめる日々が続いた。

ある日、私は昔読んだ鏡の国に行く物語を思い出した。
私はバカみたいと思いながらも、想像力の翼をひろげて鏡に向かって語りかけた。
そうしたら苦しみも寂しさもつらさも消えるかもしれない。

私は自分の苦しみ、寂しさ、つらさを忘れるようにバカみたいに毎日毎日独り言を鏡に語りかける。だんだんその仕草もオーバーになる。

ご飯は尚輝がいつも作ってテーブルに置いてくれている。いつも昼食と夕食の分が用意されている。その昼食と夕食をいつも一気に食べる。それから鏡に語りかける。それが私の日常になった。

こんな自分が情けなかった。尚輝助けて!!
私、本当に怖いの!!お願い抱きしめて!!

そう言いたいけど、今の私には言えなかった。
自分の今の生活を思うとなんにも言えない。
死にたい程苦しい…。

不思議な玉

ある日、私はめずらしく昼間に起きた。
時計を見ると1時過ぎだった。
窓の外はすごく良い天気!
久しぶりに外に行きたい気持ちになった。

私は不審者のように、そっと窓を少し開けて誰もいないか確かめる。
外には誰もいない。私はつばの大きな帽子を深く被って自分の顔を隠すようにすると、すぐに駆け足で自転車に乗り、河川敷のほうに向かって走り出した。

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