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2023.8.19 日本の高校生たちが繋いだ日台の絆

先日の夏の高校野球で、台湾からの留学生が甲子園で大活躍したと話題になりましたね。

彼は甲子園に憧れて台湾から高知中央高校に留学し、試合にはご両親も駆けつけて観客と共に応援したとネットニュースで掲載されました。

こういった場面で日台の交流があると、台湾が親日国なんだか胸が熱くなります。

実は、以前にも今回の出来事のように、高校生が日本と台湾の架け橋となったことがあります。

それは昨年、台湾の国慶節での日本人高校生のパフォーマンス。

そのパフォーマンスは社会現象と言ってもいいほど、大きな旋風を巻き起こしました。

今回は、昨年に若い世代が繋いだ日台の絆について少し書いていこうと思います。


台湾人の心を奪った日本の高校生たち

台湾の国慶節(建国記念日)の主役は誰かといえば、もちろん台湾の国民でしょう。
ですが、昨年は少し違いました。

台湾で一番話題になったのは、日本からやってきた京都の高校生たちです。

京都橘高校吹奏楽部のマーチングバンド『オレンジの悪魔』が国慶節に招待され、パフォーマンスを行いました。



今までの国慶節では、総統のスピーチ後、台湾の団体がパフォーマンスをするのがお決まりでした。
外国の団体を招待して演出させるということは、かつてなかったのです。

ところが、昨年、初めて日本の団体が招待されました。
総数88名の生徒たち。
日本に住む私たちであれば、『オレンジの悪魔』の異名を持つ彼らの演出をご存知の方もたくさんいるでしょうが、台湾人にとっては非常に驚くべきものでした。

マーチングバンドですから、重い楽器を背負って演奏しながら走ったり、踊ったりするのです。
しかも、隊形の変換を頻繁にします。

それが一糸乱れず整然としていて、しかも非常にスピードの速い躍動感のある演出。
そして、終始笑顔を絶やさない生徒たち。

これが台湾人に、かつてないほどの感動を与えました。

演出後には蔡英文総統も含めて、政府の要員たちが全員総立ちをして拍手を送ったのです。

水面下で進んだ二つの計画

彼らの滞在は、自由に買い物をすることもできないほどのハードスケジュールでしたが、実は二つの計画が実行されました。

一つは台湾総統府訪問です。
実は、彼らが台湾総統府に入ったときにサプライズ会見がありました。

予定にはなかったのですが、蔡英文総統が彼らと面会したのです。

もう一つの計画は、台湾の台北市で一番高いビル『101ビル』を見学しに行ったこと。

なぜ、台湾人がこれほど生徒たちの演出に心を奪われたかというと、これは恐らく、ただ演奏が素晴らしいとか、笑顔が絶えないとか、或いは女子高生が非常に可愛いとかだけではないと思います。

この背後には、常に深い台湾人の心理があるのです。

2020年から、基本的にごく限られた一部の政府関係者を除いて、日本と台湾間の往来はできなくなっていました。
台湾人の間では、“日本ロス”という言葉が生まれるほど。

しかし、そんな時、明々と日本人の団体がやってきて、台湾で一番重要なイベントの中で演出してくれたのです。

台湾人からすれば、2年間会うことが叶わなかった親しい友人がまたやってきたという一面があると同時に、更に深い心情があります。

それは、戦後ずっと台湾人と日本人の心の交流が続いているという実感を得たことです。

しかも彼らは高校生です。
歳をとった台湾人からすれば、まるで自分の子供や孫が帰ってきたような心情です。

自分の子供や孫が、こんなに可愛くて、こんなに優秀で、こんなに優れた演出をしてくれたということで、そのこと自体に台湾人は心を奪われました。

彼らと同年代の若い台湾人はというと、ネットで、
「この団体に恋をした、恋に落ちた」
という表現もあったくらいです。

実は国慶節の前後は、殆ど全てのマスコミの話題の中心が彼らでした。

今日はどこに行ったのか?
蔡英文総統は、どのような食べ物を差し入れしたのか?
或いは、
彼らの好きな食べ物とは何か?
という彼らの一挙手一投足を台湾のマスコミが、ずっと追いかけていました。

それくらい彼らは、台湾でオレンジ旋風を巻き起こしたのです。

これは一つの社会現象になったと言っても過言ではありません。

『オレンジの悪魔』の訪問が持つ政治的な意味

これは、もちろん台湾にとっても、日本にとっても非常に喜ばしいことです。

しかし、台湾では日本の団体を自国に招待してパフォーマンスをさせるということについては、一つの政治決断が必要でした。

10月10日は台湾の政治イベントの日です。
しかも、その政治イベントというのは、中華民国国慶節と関連しています。

中華民国は本来台湾と関係のない政権ですが、中華民国は1937年~1945年まで日本と戦っていました。
だから、古い体制の中華民国派は、心の奥の中では反日で日本は敵と思っています。

日本と戦った中華民国として、日本の団体を招く。

これはある意味で、蔡英文総統の一つの決断であると言えます。

つまり、日本が敵同士だったのは『中華民国』であり、我々『台湾』は違う。

現在の中華民国体制と昔の中華民国は関係ないのだ、という主張として捉えることができます。

日本は我々の友人であり、親族であるという一つの意思表明です。

昔も今も変わらない親日感情

実は、台湾人の日本に対する目線は、李登輝世代の以前と以降でかなり変わってきていました。

李登輝時代以前の台湾人には、
「日本と台湾は昔、同じ国だった」
という認識からくる親日感情がありました。

彼らは日本語も話せましたが、李登輝政権以降の世代は日本語が話せません。
日本語=外国語という認識です。

日本語世代がいなくなったら、台湾人の親日感情も消えるのではないかという懸念がありました。

ですが実際、そんなことは一切ありませんでした。

逆に台湾人の親日感情は、益々高まってきています。

そして、今の台湾と日本の交流は、こうした若い世代に通じているのです。

この日、『オレンジ悪魔』によって一つのことが証明されました。

それは、日台間の友情は、決して日本語世代のみが持つものではないということ。

これは世代を超えた友情であり、これからもずっと消えないと思います。

そして、88名の高校生が台湾で旋風を巻き起こしたことによって、多くの台湾人は、益々日本の若者に非常に興味を持つようになりました。

交流とは、そういうものです。

全て国同士がやるとか、非常に大きいことからやるのではなく、このような交流こそ、本当の心と心の繋がりではないかと思います。

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