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#28 THE HERBALIST YASOは越後薬草のカルチャーの象徴

 ここ数年、国内のクラフトジンやスピリッツをバーや酒屋、ボトルショップで見る機会も多くなった。実際、都内に限っても数カ所の蒸留所があるし、最近では蒸留設備を持つ焼酎蔵がこれらを蒸留するケースも少なくない。

 自分自身も勉強を兼ねて様々なジンやスピリッツを飲む機会が多いが、その中でも越後薬草のTHE HERBALIST YASOの味わいは、他のお酒と大きく異なる。ボタニカルの豊かな香りはもちろんのこと、THE HERBALIST YASO特有の何とも言えない「甘酸っぱさ」。これがとてもユニークな特徴に感じていた。
 また越後薬草という母体の企業は50年近く続く新潟・上越の老舗企業。元来、上越地方の名産「よもぎ」を中心とした野草を用いた健康食品の開発やOEMの事業を展開されていて、そもそものバックグラウンドがお酒ではないところも、非常にユニークで興味深く、今回訪問をお願いさせていただいた。

 新潟は地図を見るとわかるように、東西に長く広がる大きな県だ。前日まで滞在していた新潟市から越後薬草のある上越市までは、長距離バスで約2時間半の長旅になった。ここまで離れていると同じ新潟県といえどもまるで景色も気候も異なる。
 新潟市内で雪を見ることはなかったが、上越にたどり着く頃には、3月も後半に差し掛かる時期だったが雪に覆われた山々が見える。上越市内から越後薬草の工場に隣接する蒸留所まではタクシーで移動をしたが、運転手曰く、それでも今年は例年に比べるとだいぶ雪が少ないようだ。

 越後薬草に到着すると、社員の方々が丁寧に挨拶をしてくださる。蒸留所に隣接する本社にお伺いすると白衣を着た社員の方たちに混ざり、自分も白衣に着替えて、製造の現場にお邪魔した。まず蒸留の前の工程として、ボタニカルとして実際に使われる野草やベーススピリッツとなるもろみ作りとその蒸留工程を見せていただく。

地元の上越地方から日本各地はもとより、世界中から集められた野草たち

 THE HERBALIST YASOの責任者である梅田さんと営業担当の吉田さんが丁寧に案内をしてくださったのだが、酒類の事業の発端としては、健康食品としての酵素の製造過程でアルコールが回収できることがわかり、そこからTHE HERBALIST YASOとしてのスピリッツとジンづくりが始まったとのこと。THE HERBALIST YASOはそれ自体が目的ではなく、あくまでも酵素によるアルコール発酵の副産物として始まったことを教えてくれる。

 しかしベーススピリッツを他社から購入して蒸留するつくり手も少なくないが、THE HERBALIST YASOはベーススピリッツの元となるもろみから醸造している。その工程を目の前で見せてもらったが、驚くほど贅沢に野草を漬け込み、ボタニカルのエッセンスを抽出する。またそれらを発酵させるために中国江蘇省から輸入した陶製の甕に移し替えられ、発酵のための糖を加えられてベースとなるもろみが醸造される。このもろみの段階で、すでに甘酸っぱい芳醇な香りが漂う。

パチパチと弾けるような音を立てて発酵するもろみ
もろみからアルコールを抽出する蒸留器

 本社の工場で第一段階となる蒸留プロセスを見せていただいた後は隣接する蒸留所に移動する。ここではまず、もろみから蒸留されたもの、そしてさらに要素をカットしたもの、最後にボタニカルで風味づけをされたものと、それぞれ3つの蒸留プロセスのお酒をテイスティングさせてもらう。

 第一段階のもろみを蒸留しただけの状態のお酒に、初めてTHE HERBALIST YASO GINを飲んだときに感じたあの特徴的な「甘酸っぱさ」がしっかりと感じられ、蒸留工程の初期段階にも関わらず、その旨みに感動する。

 さらにこのもろみ蒸留から、要素をカットしてさらにピュアな蒸留酒に。そして最後にボタニカルのエッセンスを加えて蒸留と、なんと完成までに3回もの蒸留が行われる。それだけでなく、ボタニカルの一部は、それぞれ蒸留され、最後にバランスを見た上でブレンドされる。正直、自分が想像していたプロセスよりもはるかに手間をかけてつくられていることに驚く。

蒸留工程の3種をテイスティングさせてもらう

 THE HERBALIST YASOの由来でもある80種類の野草のエッセンスの抽出とここまでの蒸留における工程を見させていただいた後は、蒸留所の最上階にあるテイスティングルームに案内いただき、様々なお酒を試飲させていただく。

 まだ商品化をして4年ほどのつくり手。しかも元来は酒類とは異なる事業を展開されていたにもかかわらず、極めて高い品質とその味わい。
 さらに今ではレギュラーのラインナップに加えて、蒸留家が選ぶ素材を用いて蒸留されるLimited Editionに始まり、ノンアルコールの商品と次々と実験的な取り組みをされているのは、より良い商品を求めて、つくり続けるという越後薬草のカルチャーなのだろう。
 むしろ「元々が酒づくりの専業ではなかったからこそ、フラットで自由な発想ができる」とご自身が元々は日本酒蔵の蔵人だった吉田さんの言葉は、越後薬草とTHE HERBALIST YASOの酒づくりを表す本質的な言葉なのかも知れない。これからTHE HERBALIST YASOがつくるお酒が楽しみで仕方がない。

 お忙しい中、長い時間、ご丁寧にご案内をいただきまして、本当にありがとうございました。

帰り際には雪が降っていた
蒸留所の周りに植えられるジュニパーベリーの木々

salo Owner & Director
青山 弘幸
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