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#16 ヨーロッパ研修記 〜ワインと美食の都・ピオモンテでの邂逅〜

 ヨーロッパに到着し、早くも1ヶ月弱が過ぎた。

 アムステルダムから始まり、フローニンゲン。その後はベルギーに長らく滞在し、ランビック、セゾンを中心としたビールや新しいつくり手を訪れた。またふと、ヘレスを飲みにミュンヘンへ。あるいは旧友に会うべく、アルザスはストラスブールへ。こうなれば気の向くままに。

 そして、今はイタリア・トリノにいる。

 理由は数日滞在していたミラノのワインバーVino al vinoで出会ったネッビオーロに感動し、その作り手であるStefano Occhettiをインスタグラムでタグ付けしたところからやり取りが始まり、彼の葡萄畑やワイナリーを見せてもらえることになったからだ。

ミラノのワインバーで出会ったStefano OcchettiのLANGHE DOC NEBBIOLO(2020)

 今回の研修の目的のおおまかな方向性(具体的にはビール、サイダー、ワインを学ぶということ)や計画はありつつも、その時の出会いや直感を大切にしたいと思っていた。
 それには理由があって、どれだけ日本で事前にリサーチをしたところで、シーンやトレンドの最先端や面白さは、その土地の現場にあるだろうし、自分の好奇心も変化していくことがわかっていたからだ。

 Stefano Occhettiに興味を持った理由には、もう一つあって、それは彼のキャリア。インスタグラムのプロフィールを見たときに、とても興味深かったのが、最初のキャリアはエンジニアから始まっている。そしてその後に、MBAを取得し、なぜかワインづくりに転身。ん?どういうこと??
(彼のストーリーがまとまったショートムービー。ぜひ見てみてほしい。)

 ワインの感動はもちろんのこと、自分自身のITやスタートアップ、マーケティングの世界からこの世界に飛び込む姿と重ね合わせ、なんとしても会いたいと思った。急な連絡ということもあり、最初は予定がなかなか合わなかったが、トリノに延泊することにし、数日後に会えることになった。

 Stefanoのワイナリーは、ミラノからワインの世界的な産地であるピオモンテ州トリノまで約1時間。さらにそこから1時間強、電車に乗る。このエリア一帯はバローロやバルバレスコといったワインに始まり、ロエロやランゲなど日本でも聞いたことがある産地が連なるイタリア屈指の葡萄とワインの産地だ。葡萄畑とその風景そのものが世界遺産にも認定されている。

車窓の外にうっすら映るのはアルプス山脈

 Stefanoと待ち合わせしたのは、Mussottoという小さな駅。トリュフで有名なAlbaという街の一つ手前の駅で、彼は忙しい仕事の合間を縫って、わざわざ車で迎えに来てくれた。

 Mussotto駅から彼の葡萄畑、そしてワイナリーを兼ねた自宅までの道中で、ワインを作るようになった理由(祖父がワインの作り手だった)、目の前に広がるそれぞれの葡萄畑の特徴を丁寧に教えてくれた。そして、自己紹介がてら、それぞれのキャリアの話なんかも。お互い不思議だよね。
 ちなみに4月から10月はワイン作りの繁忙期で、つい先日まで多忙を極めていたようで、僕は運よく訪問できたというわけだ。

 しばらくして、Stefanoの自宅と自宅に連なる葡萄畑に到着したとき、その景色は本当に感動的な景色だった。丘のてっぺんにStefanoの自宅兼ワイナリーがあり、そこからはきれいな葡萄畑を一望することができる。

❤️❤️❤️

 またここからは車をオフロード車に乗り換え、葡萄畑に向かう。

 祖父の代から受け継ぎ、ワインの生産量に合わせて少しづつ広げてきたという葡萄畑はとても急な勾配の中にある。その風景は、繰り返しになるが、本当に息を呑むような美しさだ。

 先月にワイン作りを終えたものの、休む間もなく来年の収穫に向けて、一つ一つの葡萄を丁寧に剪定をしながら、大切に育てている。
 3年前にひとりでワインの醸造をスタートし、去年からは奥様も一緒に手伝いながら作っている。少しづつ生産量も増えてきているが、それでも多いものでも数千本のボトルを作るのがやっととのこと。実際、葡萄の収穫を終えた後の、醸造や熟成については彼の自宅のガレージで行っている。(ロックンロールだって、テクノロジーだって、大体のことは小さなガレージから始まる。)

 それでもこれからはイタリア国内だけでなく、ロンドンやニューヨーク、ミュンヘン、スウェーデンなど国外にも少しづつ輸出を始めるそうだ。

 午後にも打ち合わせがあって、とても忙しいはずなのに、ありがたいことにランチまで自宅でご馳走になってしまった。地元ピオモンテのローカルフードであるお肉を包んだパスタ(もちろんチーズをたっぷりかけて!)、サラミ、ハム、そしてワイン。
 ミラノで飲んだ彼のワインももちろん美味しかったが、彼の暖かい歓迎と教えてくれた今までのストーリー、これからの未来の話をしながら飲んだワインはまた格別だった。

 彼のつくるランゲネッビオーロは、とてもフレッシュで、イタリアンはもちろんのこと、日本食との相性もとても良いと思う。ぜひ日本に帰ってからも飲みたいと思えるワインだ。天ぷらなんかと合わせたら最高に決まっている。

LANGHE DOC NEBBIOLO(2021)。ミラノで飲んだネッビオーロの翌年のビンテージ。

 ランチの終盤に言った彼の言葉が印象的で、ずっと頭の中に残っている。

 「ワインはコミュニケーションのためのツール」ということ。

 それはワインを通じて人間同士が繋がりあったり、お互いを理解しあったりする。例えば、Stefanoと僕とのこの出会いだってそう。

 僕がお酒の世界に飛び込もうと決心した理由に、お酒そのものが好きだという理由はもちろんあるが、他にも大きな理由がある。

 お酒を知ることは、その土地の歴史や地理、文化を知ること。

 ヨーロッパに来て、北はオランダ、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリアと少しずつ南に下ってきているから、なおさらよく分かる。
 原則、お酒はその土地の作物や果物と密接につながっている。もちろんそれらは気候と地理的な影響を強く受ける。またときに宗教的な意味合いを持ち、奉納としての献上物でもあった時代もある。
 つまりお酒は地理と歴史、文化そのものだ。僕はお酒を通じて、世界を知りたい。生きている間には満たされることのないであろう知的好奇心がお酒をテーマにした、大きな理由だったりする。

 この研修も終盤に差し掛かってきたが、改めてStefanoとの出会いをきっかけに、自分自身がなぜお酒を仕事にするのか?そんなことまでも再確認できるような素晴らしい出会いだった。

salo Owner & Director
青山 弘幸
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引き続きお酒に関わる出会いやご縁を探しています。また応援のメッセージもとても嬉しいです。もしご興味を持っていただけたらお気軽にご連絡いただけますと幸いです。

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