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NHKの逆転勝訴確定 加工テレビも契約 受信契約義務確認訴訟

NHKの放送電波を受信しないように加工したテレビ(放送受信機)の設置で、NHKとの受信契約義務の有無が争われた裁判で、2021年12月03日、最高裁(第1小法廷)は原告の女性の上告を退けた。と時事通信社が報じた。

この報道後、ツイッターをはじめSNS等で異議を唱える声が多く上がった。
テレビやアンテナを加工してNHKの放送を受信できないように改造し、そのテレビの設置は放送法64条1項に定められた受信契約義務に該当するかどうかの裁判は今まで何度か行われいる。
本記事では、それらの裁判の判例や市民の反応、NHK問題を扱うとして国政政党に成った(旧)N国党(現)NHK党の活動も含めて、これまでの流れを簡単にだが紹介しよう。

加工テレビでの受信契約義務確認訴訟

2015年06月、ある男性がNHKの放送だけが映らないようにする機器を取り付けたテレビでNHKの受信料が発生するかどうか、債務不存在確認訴訟を起こした。NHKは契約義務があると主張し、受信料1,310円の支払いを求めた。
2016年07月の判決では、東京地裁は「いったん機器を取り付けても、男性の意思次第で機器を取り外して再びNHK放送を見ることができるため、受信料の支払い義務は免れない」とし、男性に1,310円の支払い命令を出しNHKが勝訴している。
この男性とは、(旧)N国党(現)NHK党 党首の立花孝志氏、判決の時期は2016年東京都知事選へ立候補するため船橋市議会議員を辞任した頃である。

後に、テレビに機器を溶接して同様の訴訟が起こされているが、東京地裁で敗訴している。

2020年06月、(旧)N国党が国政政党になっていたこともあり、イラネッチケーを組み込んだテレビを購入した女性がNHKに受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の判決が話題となった。NHK側は「ブースターの取り付けや工具を使った復元により視聴は可能である」と主張したが、東京地裁では「専門知識のない女性には困難である」と判断され、NHK側の主張を退け女性が勝訴した。

※イラネッチケー
NHKだけを受診しないための帯域除去フィルタ。筑波大学の映像工学を専門とする掛谷英紀准教授が開発。直径2cmほどの筒状の形をしたもので、テレビのアンテナ入力端子に取り付けるとNHKの周波数放送波を遮断できる。

この時点でイラネッチケーの関連訴訟は過去に4例あり、3件はNHKの勝訴、1件は取り下げられ、NHK敗訴の判決はこれが初めてであった。同一の裁判所(東京地裁)で正反対の判決が出たことも話題となった。

2021年02月、上記の女性が勝訴したイラネッチケー裁判の第二審で、東京高裁は「NHKを受信できない機器を取り付けても、機器を取り外したりすることで復元できる場合その難易度に関わらずNHKを受信できる設備である。」と指摘し、「ブースターや工具を使うなどすれば元に戻せる場合、契約を結ぶ義務がある」として一審判決を破棄、逆転NHK勝訴となった。

なお、高裁判決直後からブースターでの復元は不可能であると指摘がされていた。これは単純にブースターで減衰した帯域を視聴可能程度まで復調させると別帯域が強調されすぎ視聴不可能となるためである。また、原理的には減衰した帯域のみを復調させればいいが、必要となる受信設備用の単チャンネルパスフイルターもしくはCATVを除くBONフィルターは存在しないため難易度以前の話であり、また仮にフィルターが存在していてもカスケードとなるため専門技術者の高度な技術が要求される。
(参考:Wikipedia

2021年12月02日(付)、上記の女性の上告を最高裁が棄却、NHKと契約を結ぶ義務があるとした二審の東京高裁の判決が確定した。
(この報道が本記事冒頭の時事通信社の記事である。)
(復元不可能との指摘が最高裁でどう判断されたかは、現時点では不明。)

市民の反応

今回の判決に関する報道を受け、SNSでは納得がいなかないと多くの声が上がった。そもそもNHKの受信料制度は、インターネットが普及しテレビ離れが進んだ昨今では時代にそぐわないと言われている。全世帯徴収やインターネット徴収なども囁かれていることもあり、普段からテレビ(もしくはNHKの番組)を見ない層からは絶えず反発の声が聞こえる。

インターネットが今のように普及する(20年程)前までは、確かにテレビは一般家庭には不可欠な家電製品だった。そのため、例えNHKを見ていなくとも、民放各局が利用する地上波放送網(全国の設備等)の維持の名目があったこともあり、徴収制度が特に問題視されることは無かったのである。

生まれた頃からインターネットが存在し、テレビに慣れ親しんでこなかった世代はNHK受信料に納得がいかないのも無理はない。貧富の格差が広がり続けていると言われるこの時代に、見ていなくてもテレビ(受信機器)を持っていれば毎月1,000円以上/年15,000円以上を取られることは、人によっては決して小さな問題ではないはずだ。

また、機種や使用するアプリケーションによってはテレビが映るスマートフォン・カーナビなども今ではNHK受信料の対象であるとされた。スマートフォンやカーナビでテレビを見る人はいないとは言わないが、まず機器の趣旨が違い、テレビを見るために持っている(付けている)わけではないはずである。そういった事情も、半強制的に徴収されてしまうNHK受信料が理解を得られない理由のひとつであろう。

※現在、スマートフォンのワンセグは急速に搭載機種が減っている。

(旧)N国党(現)NHK党の活動と主張

スマートフォンとカーナビがNHK受信料の対象となってしまった切欠は、(旧)N国党が起こした通称「ワンセグ裁判」だと言われいる。

それまでNHKは。スマートフォンとカーナビに対してはまだ今ほど契約を進めてはいなかった、だが、最高裁のお墨付きを得たことで、テレビを持たない1人暮らしの若者なども契約対象となっていったのである。

さて、NHK問題に取り組む・スクランブル化を公約として2019年参議院選挙で国政政党となった(旧)N国党。その参議院選挙ではワンイシューとして話題を集めたが、その後は迷走し低迷が続いている。

ただ1つの売りであったワンイシュー「NHK問題・スクランブル化」も、今ではほとんど語られることはなくなり、2021年衆議院選挙では完全に「スクランブル化」の文字は消え失せていた。そんな(旧)N国党が今必死になって扱っているのが、党名にもなっている「弁護士法72条違反」の裁判だ。

”弁護士法72条違反の裁判”とは、簡単に説明すると、「NHKの訪問員が勝手に契約者の支払うべき受信料を安くしたら法律違反だ」という立花孝志氏の主張で提訴された裁判である。つまり、テレビ(受信機器)の設置日がわからない場合の措置として、訪問員が契約日を設置日にしても良いと助言・進言すると、過去の受信料や延滞料を訪問員の判断で勝手に安くしたことになる。その行為が”弁護士法72条違反”にあたるかどうかの裁判というわけだ。

以下は私の見解だが、
この”弁護士法72条違反の裁判”、NHKが勝っても負けても”設置日がわからないときの対処法”が新たに法律に追加されるだけではないだろうか。仮にNHKが負けた場合、NHKや委託会社に罰則や罰金などがあるかもしれないが、それは直接受信料制度やスクランブル化には影響しないと思われる。むしろ、NHK本体への抜本的な改革を行う前に末端のグレーゾーンにメスを入れてしまったことで、大半は現状維持のまま受信料徴収に関わる部分だけを補足・強化される可能性もある。

2021年衆議院選挙前の10月08日には、「NHKの放送受信料徴収をめぐり、当事者でない委託業者による戸別訪問は弁護士法72条違反だとして徹底追及する。」当時はこれを唯一の公約とした(旧)N国党 立花孝志氏。(その後に追加公約が発表されたが割愛する。)その”弁護士法72条違反の裁判”の如何によっては、本当にNHK改革への前進となるだろうか。


NHKの逆転勝訴確定 加工テレビも契約 受信契約義務確認訴訟(終)