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ーパソコンのカーソルで世界をコントロールできたら?ー映画『BUG』

世界でも注目を集める科学の発達。近年ではchatGDPなどのAI機能が話題を呼んでいます。その人口機能技術は、もうすでに私たちの生活に浸透しつつありますね。

ちなみにその科学の発展は映画業界にも影響が。問題の発端となったのは、俳優の二次利用被害です。俳優の顔や体がスキャンされ、AIによって動作されたデジタルレプリカを作成されてしまいました。この問題は、AIによって人権や芸術が奪われていると、俳優連合側がストライキを起こす事態まで発展をしたのです。

そんな科学が発展した未来を描くことができるのも映画の醍醐味の一つ。これまでも様々なSF大作が撮影されてきました。『バック・トゥ・ザ・フーチャー』や『アバター』などはその代表作ともいえるでしょう。

今回ご紹介する作品は映画『BUG』です。

AIの技術を飛び越えた、全く新しい視点で描かれる仮想世界の物語。テーマとなるのは「パソコンのカーソル」です。もしこんな世界があったらどうなるか・・・と思わされる斬新な設定。

現実世界をパソコンのカーソルで操ることができるようになった、30歳・独身の男。そんな仮想世界で起こした行動から、男が学んだことはなんだったのか?

映画『BUG』の魅力を解説です。
ネタバレ等含みますので、ご注意ください!

<作品時間>19分12秒
<監督> Cédric Prévost
<あらすじ>
マッチングサイトで恋人を探している30歳で独身の男。いつものように理想の女性をサイトで探していたところ、一人の女性から「いいね」の通知がくる。しかし、その女性には好意を抱いていなかった。

男が求めていた理想は、世界で有名な女優・カミーユ。壁には、男が合成して作ったカミーユとの2ショット写真が飾られていた。そんな思いを抱きながら、女性を閲覧していた男。ある時パソコンのカーソルが画面を越えて、現実世界まではみ出ていることに気づく。

このカーソルで現実世界をコントロールできると気づいた男は、大好きな女優・カミーユを現実世界へコピペするのだった・・・。
そして、目の前に現れた憧れの女性。しかし、男の気持ちは意外な方へと転がっていく・・・。



◎カーソルで現実世界をコントロールする!?

この映画のテーマとなっているのは、パソコンのカーソルで現実世界をコントロールできることです。他の映画でも類のない、とても新鮮な作品だと思われます。

最近では「科学技術の発展により、これから世界がこうなるかもしれない」といった未来を描いたSF映画も増えてきています。しかし今回のような、現実世界と見事に融合させた、全く非日常の世界観を描くファンタジーも面白い視点です。

ちなみにカーソルを使ってできることは、パソコンの機能と全く同じ。物を消すことや移動させること、欲しいものをコピペして目の前に登場させる、間違った動作を戻すなど、身の回りの物を全て支配できる世界。

そこで起こす男の行動が作品の見どころですね。

しかし、これらのことはあくまで映画の設定に過ぎません。如何なる仮想世界でも、鑑賞者を引き込ませるロマンスを引き出すのは、フランス映画の大きな特徴。

容姿に自信のない男が、理想と100%マッチした女性を目の前にして関わる中で何を感じるのか?

そして、それを見たあなたは何を思うのか?

フランス映画ならではのリアルな恋心にぜひ注目していただけると幸いです。

◎マッチングサイトで男が求めていた理想の女性

少し小太りで容姿に自信の持てない男。マッチングサイトでも、理想の見た目の女性とは全然マッチすることがなさそうです。

それでも男が思っていたこと。
それは「自分の理想や憧れる人と付き合いたい」ということではないでしょうか。

これは私たちの世界でもよくある話です。
素敵な出会いを求めるが故に、恋人を自分の条件ばかりに当てはめてしまうのです。それは髪型や体型などの見た目から、心を表すパーソナリティまで。

さらにマッチングアプリは、そういった考えを加速させる原因の一つともいえるでしょう。閲覧しているのは一度も話したことのない相手。会うか会わないかの決め手は、自分が恋人にしたい条件とマッチしているかどうかに限ります。

これまでの経験から、見た目でどんな雰囲気の女性なのかを決めつけてしまう。フィーリングや自然な流れで感じることを重視しない・・・。

しかし、そういった考えになるのは恋をしたいと強く思うからこそ。

主人公の男性もきっと同じ状態なのでしょう。最初にいいねを貰った、クレイジーガールを見た時の反応がそれを象徴しているのがわかります。


◎カミーユを連れ出して思ったこと

カーソルを使ってカミーユを家に連れ出すことに成功した男。やっと出会えた憧れの女性。男はそのまま幸せになるのかと思いきや、展開は思わぬ方向へと転がっていきます。

結末は、カーソルの取り合いの結果、カミーユが死んでしまいましたね。実は男とカミーユの一連を振り返ると、男が幸せに感じた瞬間は一度もなかったようです。

まずは出会った瞬間。男は出会った喜びどころか、カミーユをコントロールすることに必死になります。言い換えれば、自分のものにしたいと思う焦りの表れ。やがてはカーソルで自分を偽ることをします。

そしてその後のセックスをするシーン。男は自信のなさからカミーユに確認するのでした。

「僕を本当に愛しているのか? それはハンサムだから?」

これは男の自信のなさの表れだと思われます。彼の頭の中はたくさんの言葉があったでしょう。

「こんなことをしてまでするのが恋愛なのか?」
「僕は本当はこんな顔をしているのに。本当に僕を好きなのか。」
「僕はこんな顔だから身の丈に合わない。」

やがて男はカミーユを連れ出す前の状態まで、カーソルで戻す決意をしましたね。

すると、あれだけカミーユと恋人になることに苦しんだのにも関わらず、いざ会えなくなのがわかると後悔をするのです。

好きなのに、いざ会うと自分の惨めさを感じて苦しくなる・・・
でもカミーユに会えなくなることを後悔してしまう・・・

この表現はお見事です。
男にとってカミーユは、憧れの存在でいることがベストだったようですね。


◎最後に見せた表情の裏側

物語の結末は、クレイジーガールが男をカーソルで連れ出すところで終わりました。

カーソルで連れ出された男の反応は、決して悪いものではありませんでした。むしろ少し安堵の様子を浮かべていたとも思えます。

きっと彼にとっては、安心できる身の丈に合った人だったと考えられます。

この映画を通して伝えられるシンプルなこと。それは、恋人は条件や見た目が全てではないということです。

【好きなアイドル=結婚したい人ではない】という話題をよく聞いたことがあります。この映画の本題はまさにこのことのような気がします。


◎あなたはどっちを求める?

恋愛において、どのような人物像を求めるのかは人それぞれですね。

しかしこの映画では、恋愛の『釣り合い』を大切にしている気がします。

憧れるアイドルや理想の人は、その距離感だからこそ好きでいられる存在なのかも。でも追いかけている時は「結婚したい」「付き合いたい」と思うものです。

もちろん理想を追い求めることが間違っている訳ではありません。ただその人に憧れるのは、自分がその人に釣り合っていないからともいえます。だったら、釣り合うために何をするのかが努力のポイントになるかもしれません。

ですが、実際に釣り合っているのかはその人と過ごしてみないとわからないもの。

一方で、今の自分の境遇や身の丈に合わせて恋愛をすることもできます。そういった条件で心の落ち着きを求めることもできるわけです。

改めて、恋愛は複雑で難しい。
仮想世界で描く、フランス映画らしいロマンスを表現した作品でした。

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