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クリスマスハプニング【前編】


18歳の姉と12歳の弟の二人暮らし。
父さん、母さんは今年初め、交通事故により亡くなった。
今年のクリスマスは寂しく二人で迎える。

クリスマスマーケットは華やかに賑わっている。
ある露店に可愛らしい髪飾りが並んでいた。
姉はその髪飾りを欲しいと思うがお金がない。弟は取って走れば大丈夫だと言う。
ついに二人は実行してしまう…
露店の店主は怪しげな二人をマークしていた。やっぱりと思い追いかけた。どんどん追い詰める店主。
後ろを気にしながら走る二人。
すると、曲がり角のところで紳士にぶつかった。
「お願いです、助けてください」
二人は紳士に助けを求めた。紳士は機転を効かせ芝居を打つことにした。
「この野郎! よくもうちの商品を盗みやがったな」
「ちょ、ちょっと、聞き捨てならないなぁ。うちの子が盗んだとでも? とんでもない、で、この髪飾りはいくら?」
「1000円だ」
「じゃ、2000円どうぞ」
「倍にしてくれるのか?」
「怒らせてしまったお詫びに」
「じゃぁ…まぁ…」
露店の店主の厳しい顔つきが変わり、ほくそ笑みを浮かべその場を去った。

紳士は二人にどうして髪飾りを盗んだのか訳を聞いた。

今年初めに家族四人、車で旅行に出かけた。楽しく会話をしながら、くねくね曲がる山道を走っていると突然対向車線をはみ出してきた車と正面衝突…両親は即死。
かろうじて後部座席に座っていた二人は助かった。
姉は、決まっていた大学を諦めアルバイトをしている。弟は中学生。父さんの入っていた保険は微々たるもの…
お金が無くて、食べるものも節約して、我慢をしていたが、この陽気なクリスマスの雰囲気に心が躍り、どうしても髪飾りが欲しくなってしまった。

「危ないところをありがとうございました。本当は私たちの方が悪いのですが…」
「だって姉ちゃん、その髪飾り欲しかったんだろ」
「だってもへちまもないの! 実際、盗んで逃げたんだから…」
「まあまあ、姉弟ゲンカはそれくらいにして。ところで、三枝さんのお宅はこの辺りにあったと思ったんだが、お嬢さんたち知らないかい?」
「それ! 僕のうちだよ!」
「え? じゃあ、三枝智子ちゃんに大介くん? いや〜こんなところで会うなんて! 大きくなったからわからなかったよ」

紳士は、10年ぶりに子供達に会ったので立派な成長ぶりに驚いていた。紳士の名は大山俊彦。父親の親友だった。
亡くなった時は葬式に出られず、訃報を海外で聞いた。
日本に戻ってきて線香の一本でもあげようと親友の家を探していたのだった。
そこで姉弟が露店の店主から逃げてきたところにちょうど出くわしたのだ。

姉弟は大山を家に案内をする。すぐさま仏壇の前へ招き入れた。そして大山は線香をあげ手を合わせた。
「亡くなった親友、あなた達のお父さんとは、警察学校の仲間でね、その頃ちょっと危険な目にあったことがあったんだ。
それを機にどちらかが死んだら、お互いの家族を見ようと約束したんだ。だけど…車の事故とはね…」
「えー、じゃあ僕たちおじさんと住むの?」
「何言ってるの、大介は…大山さん、すみません」
「うーん、住む住まないは別として、これからいろいろ話し合わないといけないね。今はほぼ初対面な感じだしね」

大山は、仏壇の親友の写真をじっと見つめていた。

来週に続く…

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