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軌道修正

16歳…高校一年生の時。
私は不思議なおじさんと出会った。

当時のクラスメイトから
「不思議な力を持つ人の所へ行ってみない? カメラ屋のおじさんなんだけど…」と誘われた。
まだ高校に入学してから間もなく、そんなに親しい友達ではなかったのだが誘いを受けた。
私は人と付き合うまでに時間がかかる方なのだが、その時は割とすんなり「行く」ということを決めたのだった。

千葉駅東口を降りて左手の方へ行き、ガード下をくぐって100mくらい歩いたところにあった。(今は都市開発が進みもう跡形もない)
古びた木造建築の建物にそのカメラ屋さんはあった。
なんとも風情のある木の格子にガラスがはめられている引き戸。それをガラガラと開けると、そのおじさんは真正面に座っていた。

「こんにちは」
一礼して挨拶をしたものの、私は緊張しているせいかなかなか話せない。というより何を聞いていいのか分からない。
誘ってくれた友達はフランクにおじさんと話している。

するとおじさんは、ひょこっと腰を上げて「ちょっとごめんね」と言って外に出て行った。
何か用事を済ませて戻ってきた時、私の右手薬指を軽く摘んで何やらおまじないのような呪文のような言葉を唱えたのだった。
その薬指は、一週間前に犬の散歩をしようと思って開けた窓を閉めようとしたら、誤って窓のフレームと枠に思い切り挟んでしまった。爪の下はみるみる内出血してきてとても痛い思いをしたのだった。
それをおじさんは、用事が済んでガラス戸を閉めた時に感じたのだそうだ。

私が言いもしないことだったのに、いきなり私の薬指をおじさんが手に取りおまじない的なことをしてくれた。
とにかくびっくりした私は、唖然としているだけだった。
その時、おじさんは私に向かってこう言った。

「あなたは、何か“かく”と良いよ」
「かく?」

16歳の私には分からなかった。
文章を書く? 絵を描く? 書道? 
“かく”にもいろいろあった。私はどれも好きだった。

その言葉は、ずっと心の奥底に引っかかっていた。
今になってようやく文章を書くことに目覚め、本を出版して毎週エッセイやショートストーリーを書いている。
ウン十年前に言われたことがここに繋がっていたんだと思うと感慨深い。


2021年の夏頃、本を出版するきっかけとなった幻冬舎さんのコンテストの募集内容を見た時に、
『どうしてもこれを書きたい』と思った。
その想いは強烈に自分の中から湧き上がってきたものだった。

『自分の想いをここで表現できるのではないか』
今まで生きてきた証や想いを知ってもらいたい。
DV被害の経験から、暗くどん底の人生を抜け出た“今”でしか書けないという想いだった。

『心身共に辛くこんなところで一生を終えたくない…』
そういう想いをしている人に、少しでも明るい方を向いて人生を歩んでほしい。
良い言葉を見たり、聞いたり、言ったりして居心地の良い人生を取り戻してもらいたい。
私は、こういう想いを書くためにいろいろな経験をしてきたのだということに改めて気づかされた。

暴言暴力のない環境、ましてや戦争のない世界を心から願う。
いつも笑って暮らせる安心の生活。
良い言葉を通じて元気で明るい環境を、未来を、作りたい。

「あなたは、何か“かく”と良いよ」

この言葉が私にとって“人生の軌道修正”になったことは、間違いないのである。

とことこストーリー
【あなたの未来を書きます】

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