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マドリードの美術館で感じたこと

原田マハさんの暗幕のゲルニカを読んでずっと行きたいと思っていたマドリードのプラド美術館とレイナソフィアに行ってきました。(2023年1月14日ー15日)

ゲルニカを見に行く

今回の旅は、ゲルニカを見るのが1番の目的。
レイナ・ソフィアではゲルニカに関する1時間のギャラリートークがあることを事前に調べていたので、このトークに参加するのをものすごく楽しみにしていました。

しかし、到着して意気揚々とインフォメーションセンターに行くと、まさかの事態が…
(恨み言:ダメ元で事前に予約できないかメールでも問い合わせ、当日インフォメーションセンターで予約するしかないということは確認済で、そのために開館30分前から美術館につき寒い中待っていたのですが…)
なんと英語でのトークは水曜のみで、私の訪れた日曜日は英語だけとのこと。信じられない、メールでも英語で問い合わせてるんだから先いってくれ…
半ばやさぐれながら、オーディオガイドを借りて美術館を回ることにしました。

インフォメーションセンターのお姉さんに朝で人が少ない時間なので、まずはゲルニカ観に行ってから他の展示見るとよいよ〜とのアドバイスをいただき、いろんなアーティストの展示を横目で見つつ(気になるものもたくさんありましたがぐっと我慢…)ゲルニカの置かれている部屋Room205.10にたどりつきました。

暗幕のゲルニカを読んだり、Finding Dora Maar ※を少し前に読み進めていたこともあり、向き合ったらどんな感情になるんだろう?と自分の中ではかなり期待値が高めでした。
(※この記事を読んで興味をいだきイギリスでゲットしました。ガーディアンのレビューでは結構な言い草で書かれていたので、その辺りもまた文章にまとめたりしたい…笑)

ただ、ゲルニカを目の前にすると思っていたよりも冷静な気持ちでみることができ、そんな自分に少し驚き。
大きさはやはり壁画と言われるくらいなので、想像していたよりも大きく圧倒されました。当時の万博で、初見で見たりすると本当にびっくりするだろうなと思い、衝撃作と言われた所以になるほどと思いました。
当たり前なのだけど、画像で見るよりも絵の具を塗ってある感があり、黒・グレー・白の中でもいろんな色があり。向かって左の角の生えた牛?には下書きした後?みたいな線もうすっら残っていて、これが意図的なものなのか、ただの下書きなのかも気になったり。
ゲルニカ自身からも負のエネルギーとか痛みは感じたのですが、特にゲルニカを正面して右側の壁に展示されている、上を向いた馬の絵も雄叫びが聞こえてきそうで印象に残っています。なんでピカソはあの雄叫びあげてる感じをゲルニカの真ん中に持ってこず、絵の真ん中は通常の向きをした馬にしたのだろう?他の動物や絵の全体像を考えてのことだったのかな?と沸々と湧き上がる疑問…(そしてそれを解消できないもどかしさ…※恨み言)

周りには関連資料もたくさんありました。ゲルニカ制作するためにピカソがたくさん書いたスケッチや絵が壁2-3面になるくらいの展示。パリ万博当時の写真、新聞、映像など。ゲルニカが制作された背景や当時の社会情勢を知ることができたり、スケッチとかを見ると本当に悩んで試行錯誤をしていたんだろうなということが伝わってきます。
もちろんドラマールのゲルニカの制作過程の写真も展示がありました。どんなふうに色が重ねられていったのかのプロセスが見れて本当に面白い。こうやって写真が残っているといろんな観点で作品が研究できるのですごくよいということが解説で書かれていて、なるほどと思ったり。また、馬の右脇腹からなんか出てきてるスケッチは、前日に見にいったプラド美術館でいくつか見たキリスト教の絵でよくテーマになってるものな気がしてこれも今後調べたり、勉強したいなと思ったり…
本当に興味深く、このゲルニカの周りだけで1時間くらい過ごしてしまいました。

レイナ・ソフィアの他の作品やプラド美術館の展示を見て思うこと

他にもたくさん魅力的な作品が展示されていて、途中カフェ休憩を挟みながら、ゆっくり見ました。
特に印象に残っているのは、”Love freely”という デモのドキュメンタリーです。御年80歳の著名なおじいちゃん映像作家さんが最後にドキュメンタリー取りたい、とデモをテーマに選んだ作品です。デモをテーマにドキュメンタリーとるという発想もすごいと思いました。
デモ自体で言うと、デモの中で楽器を演奏したり、ダンスするように手話をしている人がいて、デモの発想の豊かさびっくりしたし、手話をしている人見て色んな人へのアクセサビリティー、思いを届けるという気概、あなたも伝えたい対象だよという思いを感じ取り、感動したり。機械的じゃなくてすごいダンスしてるように体を動かしながら表現してたのも印象強かったのかもしれません。こういう自分たちの思いを熱烈に社会に対して伝えたいという市民の姿勢を作者さんは作品にしたかったのかなと思いを馳せたりしました。

上記はほんの一例ですが、レイナソフィアは現代アート、とりわけ社会的・政治的
なメッセージを強く主張しているものが本当にたくさんあったと感じました。こういった作品や美術館の姿勢にインスパイアされて原田マハさんが暗幕にゲルニカ描いたのかなと思うと胸が熱くなったり。
思えば昨日訪れたプラド美術館にもゴヤの作品があったりとかで、スペインはフランスとかと比べて、戦争に関するアートが多いなという印象をうけました。だからか、ダリとか時間とか生命とか哲学的なテーマが多いのかなとふとおもったり。
美術館自体も商業化に走るというよりも、歴史を伝えて繰り返さないようにする、考えるためにアートを見て感じてもらったり、考えるきっかけになるような問いを投げかける場という感じがした。ゲルニカのギャラリートークの話にもどりますが、水曜しか英語開催ないなんて、外国人向けに説明する気はあんまりなくて、スペイン人向けにやってるんやなと思ったり笑

(もちろんプラドは戦争というコンテクスト以外にも、こんなにたくさんあるんやで!!!という富の象徴感も感じたり、ティッセン・ボルネミッサ美術館で印象派やその後の現代アート前くらいまでの作品でマドリードの3大美術館で全方位的にカバーされてるなとは思うのですが)

こういう鑑賞者に対する普遍的な問いへの問いかけって、私の感覚だとパリやロンドンの美術館ではあんまり感じたことがなくて(ロンドンは大英博物館に行くとイギリスの世界各国を植民地化しまくっていたシャディーな歴史を感じることができますが)スペインの美術館、特にレイナソフィアの気概みたいなものを感じました。
あとはレイナソフィアに展示されているスペインの社会に対する問いかけというローカルなコンテクストを理解しようと思うと、スペイン語やスペインの歴史について理解しないとわからないことも多い。

私は印象派あたりの絵画が好きで、綺麗、癒される…とアートに関心を持つようになった人間で、東京にいた時に清澄白河周辺に住んでいたこともあり東京都現代美術館にぼんやりお散歩に行ったり、誘われて六本木美術館にアナザーエナジー展に行ったりする程度しか現代アートとお付き合いが無かったので、こういう問いかけ的なところはまだまだ知らないことがたくさんあり、自分の無知さを改めて感じ、もっと知りたいなと思ったという気持ちが高まった旅でもありました。

現代アートってなんなんだろう

この旅を通して自分の中に沸き起こった問いから、帰ってきてから現代アートってなんなんだろうなということをふと考えていました。
そんな時にたまたま、下の動画で森美術館片岡真美さんが触れられていた、Ai Weiwei(北京オリンピックの鳥の巣、設計デザインされた方)の現代アートに対する考え方を聞いて、なんかしっくりくるなぁなるほどだなと思いました。

so called contemporary art is the politics of the society.
現代アートと呼ばれるものは社会の政治なのである。
Ai Weiwe

(ちなみにこの動画自体もすごく面白くて、特に後半で言われていた、

”ダイバーシティを尊重するというのは個人の命へのリスペクトが大元にあり、でもその差異を踏まえて個々がつながりいろんなアイデンティがありつつも、多様な視点の中で一緒に未来を見る、そのために足元を見て何ができるのかを考える”

というところはまさに政治にも共通するところがあるなと。

”その目線をあげる役割がアートにはある、普段はそんなことを考える時間はないかもしれないし、医療や社会保障政策のような直接的な社会への影響はないけど、
普遍的な問いを投げかけるのが現代アートの役割である”

このあたりも最初の現代アートの話に戻るのですが、今の私がしっくりきました。
あとはアナザーエナジー展とか女性とかに関して片岡さんがこう言った思いを持ってらっしゃったのだということを知って、彼女の企画されている展示についてももっと知りたいなと興味が広がりました。

徒然に書きたいことを書き殴ってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

おわり

#レイナ・ソフィア
#暗幕のゲルニカ

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