見出し画像

黄金を運ぶ者たち11 積み戻し③

 後は幕が開くのを待つだけであるが、ここでもう一つやることがあった。ガサ入れなどで迷惑をかけた妻への埋め合わせだ。仙道からはクアラルンプール空港の偵察を打診されていたこともあり、偵察がてらマレーシアのきれいな島でも一緒に行くことにした。思えば、一緒に暮らし出して、あくせくと働いてばかりで、一緒に海外旅行などしたこともなかった。いい機会だ、物価も安いマレーシアで精一杯埋め合わせをしようと思った。

 目的地はレダン島。クアラルンプールから国内線の飛行機に乗り換え、マレーシア北のクアラトレンガヌに行き、そこから舟で一時間ほどのところにある。
 深夜のエアアジアで羽田からのフライト。ローコストキャリアではあるが、なかなか快適なフライトだった。早朝クアラルンプール到着。ひとしきり保安エリアをぐるぐる回り偵察後、入国審査を受け国内線搭乗口へ。それから一時間ほどのフライトで、クアラトレンガヌに到着。

 空港から市内に行ったまでは順調だった。
 そこでツーリストインフォメーションに行き、レダン島へ行く船とホテルを確保する予定だったのだが午後は休業の看板。建物の前で立ち尽くす二人。
 近くの土産物屋で話を聞くとレダン島への舟が出る港町は、ここから車で一時間ほど行った所にあるらしい。
「そんなことも知らないのに行こうとしてたの?」
 実は学生の頃レダン島には一度行った事があるのでなんとかなるだろうと思っていたが、二〇年前のことだ。どうやら記憶の齟齬があるらしい。

「大丈夫なの?」と不審がる嫁さんに何の根拠もなく「任せなさい」と胸を張り、とりあえず港町へとバスで向う。バスの運転手と他の乗客に港町に着いたら教えてくれと、何度も念を押していたおかげで、目的地でバスを下りる事ができた。海も近いようだしここで間違いないだろう。

 着いた所はガラーン。何もない!また立ち尽くす二人。「どうしようかね」僕が少し弱々しく呟くと彼女は怒り心頭に達したようで「もうあんたにゃ任せられない!」と言って一人で歩き出した。すぐに後を追おうとしたが「あなたは、荷物を見てなさい」と一喝。

 そして、少し離れた所に止まっていたピックアップトラックの窓を叩いて、運転手と何やら話した後、車に乗り込んだ。
「え!捨てられた?」
と一瞬思ったが、車ごとこちらにやってきて「荷台に荷物載せて乗りな!」
 全く男前なことである。

 聞けばレダン島に行く船は本日終了していて、この車の運転手に話をして、近くのホテルに連れて行ってもらうように頼んだということだった。連れて行かれたのはなかなか立派なビーチリゾートで、客室はほぼ全室コテージ。さぞ高かろうと思ったが、夜のビュッフェディナー込みで一万円ほどであった。安い!と感心したが、嫁さんは支払い前に部屋をチェックし、値段交渉をして千円ほど値切った。
その後フロントのスタッフを通じて明日からのレダン島滞在費ホテルと島への船便を確保した。
「まさか、あなたがここまでテキトーとは思わなかった!」
「ごめん、ごめん、とにかく助かったよ」
 妻はしばらくは不機嫌であったが、思いの他豪華なディナーブッフェと、満天の星空と、波の音が怒りを鎮めてくれたようだった。

 その後、島での滞在を満喫し、クアラルンプールに戻り、帰国の途についた。帰国便は羽田着だったが、この時はマレーシア帰りのためなのか、羽田帰りのためなのかわからないが税関もチェックなくスルーだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?