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黄金を運ぶ者たち12 ファーストコンタクト②

「ただ、シリアル交換についてですが、残念ながら、手持ちに交換できる6本というのがなくて、これについては、一旦香港で売って新たに買い直すしかないんです、そうすると結構な手数料損が生じてしまいます」
「そうですか。額にもよりますが、ジョーさんがそのような言い方するということは、あまりオススメではないと」

 話を聞いてもらっただけでも有り難い事だか、落胆は禁じ得なかった。
「ただ方法はあります」
 ジョーが頷きながら話はじめた。
「シンガポールに友人のハッサンという売り手がいます。彼はインドに運んでいるグループに金を捌いていて、運ぶグループは確かマリンドエアを使って、クアラルンプール経由で、インドに運んでいるはずです。真田さんも今回クアラルンプール使うんでしたら、タイミングさえ合えば、クアラルンプールのトランジットエリアで、インド行きの金と交換できるかもしれません」

 ジョーはサラリとそう言ったが、驚きの事実の連発に、唸らずにはいられなかった。
友人の売り手がシンガポールにいるというならば、香港だけでなくシンガポールでも買い付け可能になる。
これは航路のバリエーションを増やす上で重要なことだ。

 さらにはインドに運んで利益を出すグループの存在。
それが自分たちにも可能になれば、日本でマークされたポーターでもインドなら運び屋ができるということになる。こんな貴重な情報を得ることができる上に、シリアル交換も出来そうということになり、僕の心は踊った。
ジョーは関心しきりの僕をよそに、スマホを取り出し電話をかける。
「ちょっと失礼。その件ハッサンに聞いてみます」

 ジョーは電話の主であるハッサンに日本語で事情を説明している。ハッサンとはいったい何者であろう?と考えていると、ジョーが指でオッケーサインを作り、僕に目配せした。シリアル交換可能ということだろう。

 それからしばらく話を続け、電話を切った後、僕に報告をはじめた。
「どうやら、今週末にインドチームがクアラルンプールからインドに向かうそうで、ハッサンの部下が、クアラルンプールに運んで、運び屋に渡すようです。そこで交換可能だと。真田さんはクアラルンプール経由してシンガポールに向かうといいですよ。細かいことはアプリで真田さんとハッサンを繋ぐので直接やり取りしてください」
 なんとも、スピーディーで心強い展開だと思った。

 それから三〇分ほど雑談した。ジョーの話によると、ハッサンは日本に住んでいたこともあるインド人で、日本語話すのは問題ないが、漢字が読めないので、書くメッセージは英語になるとのことで、トークアプリで話すのが良かろうとのことだった。

 次のアポがあるというので、今日の対応への感謝を重ねて述べる僕に、ジョーは「次回会うときは食事でも」と明るく答え、足早にその場を後にした。
 さて次はハッサンと話さなくてはならない。まずは、腹ごしらえ。それからホテルに戻り部屋から連絡しよう。方針を定め席を立つが伝票がない。ウェイターに聞くと「お連れの方が払った」とのこと。ヤラれたなぁ。とジョーのスマートさにため息をつき、地下鉄の駅へ向かった。


黄金を運ぶ者たち12 ファーストコンタクト③

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