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上司の文章添削。

新卒の頃、文章添削をしてもらっていたことがある。

添削してくれたのは、当時私の新人教育を担当した、配属先の直属上司からだ。添削は、書類やメールなどの私が書いたすべての文章が対象だった。

社会経験がほとんどない私は、毎回どこかを直された。まわりの同僚はサラッと目を通されてサクサクと仕事を進めているのに、毎回どこかを指摘され、時間をかけて書き直しているのは、内心ちょっと辛くもあった。

社内の稟議書も、適当に書くのは許されなかった。

「〜〜の案件で○○を申請します。よろしくお願いします」

業務の中で、正直こんな内容でも通ってしまうような事務的な書類があった。しかし、上司は案件の内容を丁寧に解説し、決裁する部門が何を考えているのか、なぜ申請するのか、今後どんな展望を描いているのかを私に考えさせ、文章にさせた。自分の仕事も十分に分かっていない新人だった私は、この書類を書くのに苦労した。

メールの添削は6ヶ月間、書類の添削は部下だった3年間にわたった。
今思えば、自分やチームの仕事をしながら新人の添削を続けていたのは、相当な仕事量だったのではと思う。


東京で桜の満開宣言が出た同じ日に、その上司の訃報を知った。

9年前に私が退職して以来、会うことはなかったが、ときどきLINEをしていた。

最後にやり取りしたのは去年の8月。あのときはこうなるとは思ってもいなかったが、実は、私はLINEで近況報告と一緒に当時の新人研修を振り返っていた。会社を辞めてフリーランスになったいま、当時の教育が活かされていることのひとつに、私はこの添削を挙げた。

私はほぼ在宅フリーランスと言っていい。あのときの添削のおかげで、顔を合わせたことがなくても、テキストでのやりとりだけで、これまでトラブルなく仕事ができている。

そして、記事を書くときも、あの添削が活きている。文章を書きながら、読んでいる読者の様子を想像する。この一文を読んでいるときは何を考えているだろうか、次はどんな言葉をかけようか。

記事の向こう側にいる人を想像しながら文章を書くのと、フロアの反対側で座っている、ふだん何をしているかよく知らない決裁部長を想像しながら稟議書を書いていた頃と、感覚は大きく変わってない。

PREP法やPASONAの法則を学んで、SEO記事やセールスを意識した動画の台本が書くときも、文章の先に感情を持った生身の人間がいることを思い出せるのは、間違いなくこの添削のおかげだと思う。


新卒から18年経ってしまったけど、私、たぶんあの頃と全然変わってません。「どこでも通用するように」と言いながら指導してくれたおかげで、在宅フリーランスでお仕事いただいています。今もこれからもずっと感謝しています。





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