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玉虫色の虫

昔々のある夏、外(神奈川県)で友人達と話をしていたら
大きな虫が飛んできて私の左胸にとまった。

細長い流線型の身体で、頭を上に、真っ直ぐに。
輝く緑の縞模様が作り物のようで
まるで本物のブローチを付けたようだった。
私がその時着ていた服がちょっと光沢のある緑系の模様だったので
仲間だとでも思ったのだろうか。
札幌では見たことがない虫で、調べてみるとこれは
「タマムシ科タマムシ」
これが玉虫厨子のタマムシであったかと感動した。
そして実を言うと
それまで違う虫をタマムシだと思っていたのである。
学校で玉虫厨子について習ったとき
光沢のある緑色の甲虫だと聞いて
身近にいた「そんな感じ」の虫が脳内タマムシになっていたのだ。
だってさー
玉虫厨子のタマムシの羽根はもうほとんど剥落してしまっていて
美術の教科書だったか日本史の史料集だったかに載っていた画像でも
ほんの「カケラ」でしかなかったし。
いや、そもそもタマムシは北海道にはいないのよの。

それからウン十年・ある日なぜかこのことを思い出して
あの虫は確かエゾタマムシとか言わなかったっけ?と気になって
北海道の虫の図鑑はどこだろうと本棚を探したのだが
探しものというのは探している最中には見つからないものである。
マチナカで他にも用事があったので
北大の図書館まで足を延ばしてみた。

名前がわからないのでひたすら図鑑の甲虫のページをめくる。
光沢のある緑色の羽根の細い甲虫で
頭や足はオレンジ色で
目玉は頭の大きさの割に大きくて黒く
カミキリムシに形が似ているが触覚はそんなに長くなかった…

…これだ、見つけた!
「アオカミキリモドキ」
自分の脳内エゾタマムシは実は「アオカミキリモドキ」であった!
あまりに「そのまんま」の名前が可笑しかった。
ちなみに「エゾタマムシ」という虫はいないようだ。
完全に脳内名称だったのである。

これも遠い夏の思ひ出。

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