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ツタと坂道

子育ての風景
言語
勉強

もう40年近くも前のこと。
渋谷駅からバスに乗っていると子どもの声が聞こえた。
「お母さん、ここ、坂だね!」
「あ、坂ね!あまり急ではなくて、ゆるやかな坂、ってところね。」
「急ではなくて、ゆるやかな坂、よ?きゅう、と、ゆ、る、や、か」
「はい、言ってごらんなさい。きゅう、ゆ、る、や、か」
しばらくしてまた子どもの声がした。
「お母さん、あのおうち、葉っぱが一杯だよ!」
「あ、ホントね。あれはきっとツタよ、ツタ!ツタだと思うわ!」
「おうちに帰ったら図鑑で調べましょうね」
バスの中は透明なアクリル樹脂が流し込まれたような空気になって
座っていた自分はずいぶん大きくなってきていた自分のお腹をなでながら
お前にはこんなこと言わないからね
絶対に!
と誓った。
その誓いは時にちょびっと破られたが
今でもツタや坂道を目にしてこの時の声が聞こえるときがあって
あのバスの中の空気がよみがえってくるのだ。


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