本当に君は総理大臣になれないのか

小川淳也は香川一区の当選六回の衆議院議員、その六回の内容は、2005年民主党比例復活、2009年民主党小選挙区、2012年民主党比例復活、2014年民主党比例復活、2017年希望の党比例復活、2021年立憲民主党小選挙区、です。

2020年、大島新監督のドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』が話題になりました。映画は見ていないけれども、話題にふれて、はじめて「小川淳也」という名前が記憶に残りました。

香川一区には、盤石な「地盤・看板・カバン」をもつ自民党選出の政治家一族の三代目である平井卓也がいて、無謀と見られていました。

政治家が富の再分配をしてくれる存在だから、国民の側から言えば、政治家は「飴玉をくれる相手」になるわけです。そうすると、他人から飴玉をもらうときに、その飴玉をくれる人が信用できる人だとか、どれくらい自分たちのことを理解してくれているとか、そういうことは、もらう側からすれば、はっきり言ってどうでもいいことでしょう?

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だから、有権者は、地盤・看板・カバンを基準に、より多く飴玉を与えてくれそうな有力者を選ぶことになります。国全体よりも地元選挙区の利益優先、であり、それを拒絶することを、小川は自身のスタンスにしています。

その彼のあげる枠組みでは、以下の三点に注目します。

緩やかな党議拘束。〈それぞれの法案への賛否は、各議員の見識において決めるんですよ。そしてそれを有権者に説明する責任は自らが追う。(略)その副産物として緩やかな連帯という党の統治機構がうまれる〉(107頁)というものです。ここで注意すべきは、支援者ではなく有権者への説明責任、と述べているところです。

次いで、事前審査制度という仕組みの廃止。日本政治独特の慣習で、内閣が国会に提案する法案を与党の政策担当者に依る審査を経て、国会に提出されるという仕組みです。これでは野党の意見は取り入れられにくく、立法機関としての国会の役割が、十全に機能することは、困難です。

そして、吸い上げた国民の声と小川の思っていた政策が違っていた場合、〈両者が合致するように努力しなければなりませんが、僕の政策にも当然軌道修正があっていいと思っています。大事なのは国民と政治家が信頼強度を高め、ともに作った感、共有できるものにしていく〉(113頁)、としています。

『我々はどこから来て、いまどこにいるのか』でエマニュエル・ドットが引用しているデイヴィッド・グッドハートの「節度あるポピュリズム」という表現があらわしている、他者の存在を意識したポピュリズム、つまり、「私たちとしての私」(互盛央『日本国民であるために』)が重要なのです。

『本当に君は総理大臣になれないのか』 小川淳也 中原一歩 
講談社現代新書 2021

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