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出版社・三五館の話(2000年~)

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記事一覧

ひとはなぜ食べるか?ーー倒産する出版社に就職する方法・第69回

4マス戻ります。
突然ですが、連載第65回に戻ります。あなたのせいではありません。「4マス戻る」のマスに停まったから仕方ないのです。人生にはそういうこともあります。気にしないでください。で、「人は食べなくても生きられる」と宣言した山田鷹夫氏との新潟県での打ち合わせシーンです。2004年です。

「食べない」とはいったい、どの程度食べないのか。これから『人は食べなくても生きられる』と宣言する本を作る

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新聞広告を考えるーー倒産する出版社に就職する方法・第68回

こんな反響があるとは思いませんでした。
7月30日に、新刊『交通誘導員ヨレヨレ日記』という本の新聞広告をやりまして。
一面の下に書籍広告が8本の並んでいるスペースがありますよね。あれをサンヤツ(3段8ツ割)といいます。読売新聞にサンヤツ広告したんです。
新聞広告自体はサンヤツも半五段も何回かやっているので、三五館シンシャにとってもそれほど珍しいことではありません。ただ、その反応が思ってもみないもの

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それホントやったんか?--倒産する出版社に就職する方法・第65回

その1時間ほどのち、われわれ二人は施設の喫茶スペースにおいて、互いにほんのり上気した顔で向かい合っていました。(温泉施設でいったい何があったか……みなさんのご想像におまかせすることにしましょう)

さて、ここからがいよいよ本題です。
私は温泉に入りに新潟まで来ているのではありません。原稿の修正依頼をして、手直しに入ってもらわなければなりません。
そして改稿をしてもらう上で避けて通ることのできないテ

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秘密の儀式--倒産する出版社に就職する方法・第64回

「おっ、おお。これな。これ、ちょっと事故ってなあ……」

ちょっと事故った。。。

さすがにメガネの破損は精神的ショックにより引き起こされたわけではなく、物理的な接触によるものだったようです。それにしてもメガネがこれほど芸術的に破損する事故とはいったい……?
メガネのヒビの原因はもちろん、亀裂に覆い尽くされ視界がほぼゼロであろう左レンズをそのままにしているのも気になります。

しかし、そんなことに

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モザイクに隠されているもの--倒産する出版社に就職する方法・第63回

タモリの電話からさかのぼること3カ月前、私は越後湯沢の駅に降り立っていました。そこで初めて『人は食べなくても生きられる』の著者・山田鷹夫氏と落ち合うことになっていたのです。
もともとこの企画は三五館への持ち込みでした。当時の三五館では、すべての持ち込み原稿についてH社長直々に真っ先に目を通し、その可否を判断していました。
ですから、私がH社長からこの原稿を読むように命じられたときには、この企画を出

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タモリからの電話--倒産する出版社に就職する方法・第62回

2004年12月15日の午後。いつものように遅めの昼食を、たぶん新宿通り沿いのCOCO壱番屋だか吉野家あたりで済ませていたのだと思います、きっと。あのころの昼飯なんてたいていそんなものだったわけで、要はいつもと変わらぬ昼下がりのことでした。
三五館(当時)の社内でパソコン打っていると、私のデスクのちょうど斜向いに位置する編集部の先輩Nさんが外線電話を取り上げて二言三言話したあと、大きな声で私の名前

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キック王者のち医師ーー倒産する出版社に就職する方法・第52回

2004年11月5日、昼下がりの池袋・ホテルメトロポリタン。
1Fラウンジに陣取ったわれわれは雑踏の合間を縫い、入口に目を凝らしていた。
「来た。あいつだ……」
横に座ったH社長(H社長については連載第7、8、17、18回あたりを参照)がそうつぶやき、私に目配せをする。
小柄だが、目つきのするどい男が周りを見渡しながら入ってきた。肌は浅黒く日に焼け、Tシャツの上からもその体が相当に絞り込まれている

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ある画家の悲劇ーー倒産する出版社に就職する方法・第21回

中国の梁(502~557)に張僧繇(ちょうそうよう)という画家がいたそうなんです。
この張さん、絵画の技術が飛びぬけていて超うまい。
それに目をつけた梁の武帝は彼に、寺の壁に4匹の竜を描くよう命じたんです。
たぶん「スプレーアートみたいなので寺の壁に落書きされたらかなわん。超うまい竜のイラスト描いておけば、よもやそこに上書きしてスプレーアートで描きはしまい」とか考えたんでしょう。鳥居のマーク描いて

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ビッグデータと取次番線ーー倒産する出版社に就職する方法・第19回

出版社にかかってくる電話はさまざまで、著者はもちろん、書店、取次、印刷所、デザイナー、そして読者からの注文や問い合わせ、さらには抗議電話や原稿の売り込みまで多岐にわたります。

電話の作法、その3「的確に」。
電話を受けたものは、多岐にわたる関係者からの用件を瞬時に判断し、担当部署にスムーズに回し、的確に意図を伝達すること。
ちなみに前回(第18回)、私の耳に「かぁだ」と聞こえたのは、山岳写真家・

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電話の作法ーー倒産する出版社に就職する方法・第18回

2000年5月当時、三五館は編集部2名、総務部2名、営業部1名、そしてH社長という6名体制でした。ここに私が加わることになります。

このくらいの少人数でやっていますから、肩書きは編集部所属とはいえ、業務は雑務全般です。

まずは電話受けがその第一歩です。

第一歩ですが、単なる第一歩ではありません。三五館において、電話受けはそんな簡単なものではないのです。足に鉄球を括り付けられての第一歩なのです

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編集者 今日から俺も 編集者 ーー倒産する出版社に就職する方法・第17回

(第13回からの続き)

かくして私は、2000年のゴールデンウイーク明けから、アルバイトとして三五館編集部に加わることとなりました。

言い渡された採用条件は、「社会保険なし、残業手当なし、月20万円」だったと記憶しています。

えっ、そんなにくれるのかよ?

就職活動に失敗し、心のひとつもわかりあえぬ大人たちを睨み、家を出てアルバイト生活をしていたころ(連載第2回で実家を出て、第7回で再就職活

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ジョコビッチ完全復活の朝にーー倒産する出版社に就職する方法・第16回

「はい、もちろん大丈夫です。ぜひお使いください」

私は浮き足立ちました。

担当者の話によると、母国セルビアを代表してリオオリンピックに出場するジョコビッチに取材時間をとることができ、テレビ朝日のオリンピックレポーターとして派遣される松岡修造が直接インタビューすることになった。いろいろな話題をふる中のひとつとして、本人の著作が日本でベストセラーになっていることも質問してみたい、ついては書籍を使わ

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ジョコビッチと生まれ変わった男――倒産する出版社に就職する方法・第15回

「ああ、はいはい、ジョコビッチですね」

スポーツ選手だということはわかっていたものの、そのジョコビッチとやらの競技がなんだったかは少々手探り状態でした。

テニスだったっけか、たしか……その程度の認識で、編集部に突如電話してきて、そのジョコビッチとやらの著作『SERVE TO WIN』について早口で捲くし立てる男と実際に会ってみることにしたのです。2015年1月上旬のことです。

男の名はタカ大

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倒産する出版社に就職する方法・第1回

1998年春、就職氷河期とうたわれた時代。
麹町にある文藝春秋社での一次面接の結果は、電話でかかってくることになっていました。ケータイを部屋のすぐに目につくところに置いておきつつも、私がケータイを注視していることをケータイに悟られぬよう、テレビを見たり、本を読んだり…。

年末恒例のTBS「プロ野球戦力外通告」でおなじみの、呼び出し音がなるとともに過剰に手振れしたカメラがケータイにフォーカスし、満

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