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絵本が伝える生きる知恵――「フクロウの声が聞こえる」

絵本の読み聞かせは、小学校の教育委員会でも研修しているテーマです。絵本に描かれていることは、そもそもは、口承文化でした。そこには、人間が成長する過程についての知恵と真実が描かれていました。

けれども、現代に流通している絵本と、そもそもの原話となっているグリム童話や日本の昔話とでは、大事なところが省略されてしまって描かれているのがとても残念に思います。

日本の昔話研究の第一人者といえば、小澤俊夫さんです。

最近は、『シンデレラ』の原作が『灰かぶり』であることを知らない方も多いようで、先日、ある子育て中の女性に原話の解釈をお話したら、とても感動されていました。

そう、シンデレラこと灰かぶりは、実は、三回もお城に行ったのに三回とも戻ってきているのです。なぜ、三回も戻ってきたのか。小澤俊夫さんは、次のように書いています。

内容について、私は長いことひとつの疑問をもっていました。灰かぶりは結局のところ王子と結婚しています。しかし、どうせ結婚するんだったら、一回目の舞踏会で王子と踊ったときに、城にとどまればよかったじゃないか。なんで逃げ帰ってきたのだろうか。そして、逃げ帰って灰かぶりの姿にもどったのに、なんで灰かぶりのままでいず、またきれいな服を着て、舞踏会に出かけていったのだろうか。これは私にとって、なかなか解けない疑問でした。

あるとき、ふと、「ああ、これは子どもの成長する姿を語っているのだな」ということに気づきました。キーワードは鳥でした。

・・・灰かぶりは、まま母から、灰の中にまいたレンズ豆を二時間以内に拾い出せ、と命じられると、鳥たちに応援を求めます。はじめに白い鳩が来て、それからあらゆる鳥が飛んできて、灰の中から豆をつつき取ってくれます。・・・鳥は、灰かぶりに、不可能と思われる課題を解決してやり、美しい服を与えてやります。

小澤俊夫 2007年『ろばの子――昔話からのメッセージ』

『灰かぶり』の文法は、子どもの成長は揺れ動きながらするものということです。

自分のほんとうの美しい姿になりたいと思う。それを誰かに認めてもらいたいと思う。ところがそれが認められると、また汚い姿に戻る。ということを、繰り返しながら成長してゆく過程を描いていると、小澤さんはおっしゃいます。

小澤俊夫さんの息子さんである小沢健二さんの楽曲は、まるで口承文化のようで、俊夫さんは健二さんのことを「僕の息子は吟遊詩人なんだ」とおっしゃっていたことがあります。

小沢健二さんは、ニューヨークに長く住んでおられてて、いまも世界の動向をいちはやく楽曲にして日本に伝えてくださっています。

・・・
フクロウの声が聞こえる 大きな魚が水音立てる 
いつか本当と虚構が一緒にある世界へ

渦を巻く宇宙の力 深く僕らを愛し
少し秘密を見せてくれる
いつか絶望と希望が一緒にある世界へ

渦を巻く宇宙の力 弱き僕らの手をとり
強くなれと教えてくれる
ちゃんと食べること 眠ること
怪物を恐れずに進むこと
いつか孤高と協働が一緒にある世界へ!

導くよ! 宇宙の力 何も嘘はつかずに
ありのままを与えてほしい
いつか残酷さと慈悲が一緒にある世界へ
いつかベーコンといちごジャムが一緒にある世界へ

「はじまりはじまり」と扉が開く
いつか混沌と秩序が一緒にある世界へ!

小沢健二 2017年「フクロウの声が聞こえる」

葉山町図書館での絵本展示をプロデュースすることになり、近いうちに開催される予定ですので、お近くの方はぜひ足を運んでみてください。

子どもにも大人にも、心のお守りとなるような内容をお伝えしています。

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