さんごの暮らし相談室

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    心と社会について、様々な角度から書いています。書く文章は、ひとりごとみたいなもの、エッセイ的なものから学術的なものまで、幅広く。

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    カウンセリングって、私も受けて平気? 日本では、カウンセリングやセラピーへの敷居がまだ少し高いようですが、どうぞご安心を。暮らしのそばにある、そのお悩みをお聞かせください。

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最近の記事

病態水準を見極める――本来の言葉を語ること

人と人との対話は、共同構築される面があると考えるのは社会学です。 カウンセラーでさえも、ブランクスクリーン(真っ白なスクリーン)であることはできないのです。 「傾聴」という言葉は、人の支援においてよく使われる言葉です。 けれども、ただ傾聴されるだけで真に癒されたという体験を、一体どのくらいの方がされているのでしょうか。 実際、私は、傾聴だけじゃ物足りない、何か違うという話をよく聞きます。もちろん、これは、傾聴の有用性を否定するものではありません。 それよりも人間は、

    • 日本型の自己愛性パーソナリティ障害への取り組み

      自己愛性パーソナリティ障害と聞くと、どんなことを思い浮かべるでしょうか。 誇大感や万能感をもった顕示欲の強い人を思い浮かべるかもしれません。 日本社会では、そのような人はあまり好かれない空気があるように思います。「能ある鷹は爪を隠す」方が好まれるように思います。 一方で、自分が所属している集団や組織、有名人の知り合いがいるなど、自分そのものではないけれども自分と心的に地続きに思える誰かが、社会から高い評価を受けていると、ただそれだけで自慢になるのが、日本社会です。 こ

      • 『ソーシャルワークの作業場 寿という街』の美しさ

        学生時代に読んだ本で、最も衝撃を受けた本のひとつに、『ソーシャルワークの作業場 寿という街』があります。須藤八千代さんというソーシャルワーカーで、晩年は大学で教鞭もとられました。 寿町というドヤ街に辿り着いた人たちは、日本の高度経済成長を、文字通り、体で支えた人たちです。いまは寿町も様変わりしてしまった、と聞いています。 須藤さんは、仕事の中で「ケース」と呼ぶ、人間の存在に強く惹かれながら寿町にいたそうです。彼女の叙述は、「ケース」という言葉で片づけられない、人間の多面性

        • 他者の痛みと倫理

          人間は集団になると、自分が思ってもいないことを話し出すことがあります。ほんとうは、違う考えや気持ちをもっているのに、周囲に合わせて水を差さないようにしてしまいます。 いつも明るく元気だったある人が、とても重い病気の可能性があるとわかったとき、お別れの話を交わしながら心配そうな言葉をかけるある方の、その表情の中に、ちらりと笑みがあるのに気づいたことがあります。 その笑みを浮かべていた方も、いつも明るく元気なのですが、ご自身もご家族に重い疾病があられ、介護のことや将来のことを

        病態水準を見極める――本来の言葉を語ること

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        記事

          公共圏とルール圏――他者の両義性と〈自由な社会〉の構想(見田宗介より)

          社会学者・見田宗介さんが、晩年に書かれた社会構想理論に「交響するコミューン」があります。 見田さんの構想は、ポストモダンの時代における人間社会を考えるうえで、とても重要なものだと思っています。 そこでは、社会の理想的なあり方を構想する仕方として2つの原的に異なる様式が述べられます。 そして、他者の両義性として、次のように述べます。 こうした、他者の両義性の中で、見田さんは「他者の他者性こそが相互に享受される関係の圏域」として、交響するコミューンを構想し、「異質な諸個人

          公共圏とルール圏――他者の両義性と〈自由な社会〉の構想(見田宗介より)

          救済のひとつの道――グッゲンビュール‐クレイグ『結婚の深層』を読む

          A.グッゲンビュール-クレイグはユング派分析家のひとりで、この本は、深層心理学的な観点から結婚について書いてあります。 子どもをもつことや結婚・離婚は、誰にとっても大きなテーマで、多くの方が悩まれていることでもあります。 社会学的には、結婚することは「自立」として周囲から承認される機能をもつとか言われたりもしてきました。一方で、フェミニズムからは、結婚しなければならないという強制からの解放が謳われたりしてきました。 様々な考え方がありますが、グッゲンビュールークレイグに

          救済のひとつの道――グッゲンビュール‐クレイグ『結婚の深層』を読む

          【お願い】対人援助専門職の方へ

          当相談室では、ご来談いただく方々がご自身を理解したり、教養を学ばれたり、深い癒しの一助のために、無料で様々な記事をご提供しております。 そのため、当相談室の代表が書いております記事や未発表の原稿等につきまして、無断で使用・転載・盗用することは固く禁止しております。 ご使用になられたい方は、当相談室にご連絡くださいますよう、お願い申し上げます。 心理職をはじめとする対人援助専門職にあられる方におかれましては、倫理と責任をもって、ご自身が楽しまれる範囲においてのみ、ご覧くだ

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          "The Art Of Loving"(エーリッヒ・フロム『愛するということ』より)

          エーリッヒ・フロムは、社会(心理)学・精神分析・哲学とを通して、「人間」について深く考察した素晴らしい学者のひとりです。 『自由からの逃走』『愛するということ』などは、よく知られた著書でしょう。 何年たっても色褪せない古典というものはあるものです。 ちなみに、フロムはこの著書の中で、精神分析の祖であるジークムント・フロイトを批判的に考察しています。経済学者ピーター・ドラッカーの本によれば、フロイトの精神分析は実際のところ、当時の経済・労働状況というのを考慮に入れる必要が

          "The Art Of Loving"(エーリッヒ・フロム『愛するということ』より)

          「イクメン」再考――現代の母親の苦悩とは?

          最近、男性の育休取得の目標設定を義務化するというニュースがありました。男性が育休取得すると、今日の家族をめぐるいくつかの課題は解決してゆくのでしょうか? 現代の母親たち、とりわけ、産後から数年の母親たちの話を聞いていると、世間が想像するような「夫が子育てや家事に協力してくれない」というものではなく、「夫の子育てや家事へかかわってくるのが困る」というものが、思いの外、多いのです。 特に、「イクメン」意識の高い方が、あちこちから仕入れてきた情報で子どもにかかわろうとし、妻に対

          「イクメン」再考――現代の母親の苦悩とは?

          絵本が伝える生きる知恵――「フクロウの声が聞こえる」

          絵本の読み聞かせは、小学校の教育委員会でも研修しているテーマです。絵本に描かれていることは、そもそもは、口承文化でした。そこには、人間が成長する過程についての知恵と真実が描かれていました。 けれども、現代に流通している絵本と、そもそもの原話となっているグリム童話や日本の昔話とでは、大事なところが省略されてしまって描かれているのがとても残念に思います。 日本の昔話研究の第一人者といえば、小澤俊夫さんです。 最近は、『シンデレラ』の原作が『灰かぶり』であることを知らない方も

          絵本が伝える生きる知恵――「フクロウの声が聞こえる」

          昭和の人生すごろく――『草むらにハイヒール』への違和感

          小倉千加子さんというフェミニストで心理学者で医学博士で、いまは家業の保育園を経営されている方がいます。上野千鶴子さんとの共著『ザ・フェミニズム』や、『女の人生すごろく』などの刺激的な本を書かれてきました。 小倉さんが書かれた記事をときどき読むことがあって、保育園経営を通して、第二派フェミニズムへの疑問を持たれているご様子はなんとなく知っていました。 それで、数年前に出された『草むらにハイヒール』を、けっこう期待して読んだのです。けれど、私は違和感をもってしまったのです。な

          昭和の人生すごろく――『草むらにハイヒール』への違和感

          情報の味わいについて

          年末の大掃除で、もう20年以上前に傾倒したある学者の本が出てきたのでちらりと読んでみたら、色々な意味でびっくりしてしまいました。 最近、マスメディアを観ていても雑音にしか聞こえないことがあって、マクルーハンの『グーデンベルクの銀河系』を飛び越えて、何か、この高度情報化社会の中で、人間の感覚も変わってきているのだろうかなど考えていました。 あるいは、そんなに難しく考えなくても、単に、自分にとって必要な情報かそうでないのかということなだけで、自分に必要な情報は伝わるし聞こえる

          情報の味わいについて

          梅がもう咲いている、初春

          今年のお正月は暖かいせいか、庭の梅がもう咲いていました。 新年早々、天災や人災があって、東日本大震災が起こったときのことを想い出しました。 レベッカ・ソルニットさんの『災害ユートピア』は、危機にある最中で立ち上がる共同体や人びとの創造性が、彼女の経験をもとに語られています。彼女はそれを、「地獄の中のパラダイス」と言います。 といっても、私が東日本大震災の被災者支援現場で体験したことは、こうした人びとの創造性の部分だけではなく、まだ消化できていないしうまく言葉にできないで

          梅がもう咲いている、初春

          ボーエンから読み解く自己分化と自律的な協働

          多くの方が感じていることだと思うのですが、日本の組織や集団に所属していると、いわゆる「同調圧力」に息苦しくなることがあるのではないかと思います。 あらゆる領域で多職種連携がいわれる昨今ですが、なかなか実現できていない現場の声をよく聞きます。どうしても、権力をもっている人の「つぶやき」に対して、周囲が忖度して「唯々諾々」となりやすい。 そして、それがいじめやハラスメントに発展することもよくあります。 それで、どっちかがどっちかに従うというかたちではなく、協働してゆくという

          ボーエンから読み解く自己分化と自律的な協働

          いまもある中世からの自由と平和の力

          子どもたちの遊びには、誰が教えたわけでもないのに、昔々から続いているものがあって。 「エンガチョ」というのもそのひとつでしょう。 子どもたちが「カラスの羽を見たからエンガチョして」と言って、両手の親指と人差し指で鎖のような輪をつくって、それを切ってもらうやりとりを見かけることがあります。 この、「エンガチョ」という遊びは、日本中世にまでその原理は遡るものなのです。そして、似たような遊びは、西洋史学者の阿部勤也さんによればヨーロッパ中世にもあるとか。 「エンガチョ」につ

          いまもある中世からの自由と平和の力

          久しぶりに、小沢牧子さん『「心の専門家はいらない」』を読む

          この本を読むにあたっては、小沢さんがどういったタイプの「心の専門家」をいらないと言っているのかを、明確にしなければならないと思うのです。 小沢さんが批判している心の専門家は、権力関係の中で適応していくことを促すものであって、しかもその適応は国家権力の思惑が背後にあるものです。かつ、ここが重要なのかもしれませんが、その権力関係というのが、いわゆる暴力的なものではなく、やわらかいもの――つまり、自らを管理化してゆく――というものだということです。 心理学と戦争との関係には、私

          久しぶりに、小沢牧子さん『「心の専門家はいらない」』を読む