1-2 ミルクを足してくれ!おっぱいポリスとの攻防

●ミルクを足してくれと助産師に号泣し懇願

 丸2日たっても、母乳は全然でない。

 出もしない乳首を含ませて、同じ態勢で授乳をして約1時間、赤ちゃんが寝るのにそこから抱っこ、やっと寝たら今度は、携帯でひたすら「母乳 いつから出る」「母乳 不足 影響」「母乳 出るには」などで検索。

 そして再び授乳。ベッドサイドに腰かけて足を下にして授乳をしているので、私の脚は象のようにパンパンにむくんでしまっていた。元々血圧は低めの方なのだが、175なんて数字をたたき出すほどおかしな状態になっていた。

 それでも、飲まず食わずの赤ちゃんが不憫で「ミルクを足してください」と言っても、助産師からは「まだ大丈夫です!頑張りましょう!お母さん!」。ちょっとでも授乳時間が空くと「赤ちゃんを起こしてでもあげてください」と見回りに来る。同じような体験をした友人がこの助産師によるスパルタ母乳追い込みを「おっぱいポリス」と名付けていたがまさにその通りだ。

●赤ちゃんが低血糖に

 そして迎えた3日目の朝。午前にある新生児チェック中にシャワーを浴びていて帰ってきた私に、軽い調子で助産師がこう言った。

「藤田さんの赤ちゃん、低血糖出ていたんで、糖水(ブドウ糖)あげておきましたから」

 血の気が引いた。

「低血糖って・・。そこまでして赤ちゃんおっぱいがでるまで我慢させる必要があるんですか?お願いですからミルクを足してください!」

 それでもここは、母乳総本山の病院。

「低血糖と言ってもごくごく軽度です。まずは、ミルクの前に糖水で様子を見ましょう。大丈夫ですよ」と助産師から言われる。

 私は、極度の疲労で返す言葉も出てこなく、ベッドで布団をかぶって声を殺して泣き、「新生児 低血糖 母乳不足」と検索していた。

 母乳の量が足りずに栄養不足や脱水状態になり、低血糖が原因とみられる脳障害が起きた事例の新聞記事が出てきた。号泣した。母乳が出すぎた時のために、と出産準備の時に購入して持ってきていた「母乳パッド」を投げ捨てるように全部捨てた。

 このままではいけない。どうすれば、わが子にミルクを与えることができるのか・・・・

 ナースステーションの横を通り、病棟から出た廊下で、泣きながら夫に電話をした。私のせいでこの子に障害が起きたらどうしたらいいのか、心配で心配で、気が変になりそうだった。

「低血糖になるのは、病院側の管理がいけない。いますぐミルクを足すように言おう。それを拒否する理由はない。ユウちゃん(子の名前)は僕たちの子どもだよ。その成長に責任を負うのは僕らだ。彼らではない。」

 第2子出産後に産後うつに落ちた際にもそうだったのだが、夫はこういう時に冷静でまっとうなことを言ってくれるので救われる。

そうしているうちに、午後5時過ぎに、夜勤交代で別の助産師が来た。

「おっぱい出るように頑張りましょうね。藤田さん!」

 もう、うんざりだ! わが子を低血糖にしてまで、この人たちは、何をやっているんだ。もう滑稽としかいいようがない。

「ミルクをあげてください。お願いです。お願いです!」

そこまで助産師から返ってきた言葉に崩れ落ちそうになった。

「お母さんは本当にそれでいいのですか?」

 私は声を荒げて言った。

「いいから言っているんです!今すぐにでもミルクをあげてください」

 4人の大部屋だったのだが、入院中お産が少なかったか、ほぼ独占状態でよかった。

●おっぱいポリス

 ここで、不思議に思う人もいるかもしれないが、入院中に産婦人科医や小児科医と会う機会は実は少ない。ほとんどが助産師・看護師とのやり取りで、母体や新生児によほど問題がない限り、この領域に関しては、「おっぱいポリス」が幅を利かせているのが現状なのだ。

 世の新米ママたちに言いたい。母乳が出るならそりゃいい。でも、出なくてもいいんです!ミルクだっていいのだ。

 「完母」(母乳のみで育てること。逆に完全にミルクで育てることを完全ミルク=完ミといい、どちらも与えることを混合、という)が偉いわけではない。

 授乳ルームで出会った同じく母乳がでないお母さんが「帝王切開だから母乳がでないのではないか」と嘆いていた。母乳の出る・出ないは、個人差です。自然分娩だから帝王切開だから、も関係ない。

●「母乳育児」のおすすめの記事と本

 この「母乳育児」に関しては、2017円11月21日付で産婦人科医の佐藤ナツ先生がBuzzFeedに寄稿した記事「お母さんたち胸張っていこう!『母乳育児』に追い詰められないで 赤ちゃんが元気に生きていたら十分です」が秀逸である。ぜひ読んでもらいたい。

https://www.buzzfeed.com/jp/natsusato/bonyuatsuryoku?

 また、妊娠・出産や育児に関して、科学的・医学的根拠を元に発信を続ける産婦人科医の宋美玄先生と、小児科医の森戸なつみ先生の「産婦人科医ママと小児科医ママのらくちん授乳BOOK」(メタモル出版)が良書であると思う。母乳至上主義でも粉ミルク至上主義でもない「中道」を両者の良い点を踏まえて客観的事実で紹介している。

 どうしても、産後はめまぐるしくて、本を開く余裕がなく、携帯で検索という泥沼にはまっていきがちなのだが、産後のママさん方、ぜひ読んでもらいたい。

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