有りし日

君が ためらいがちに つぶやく
有りし日

まるで
めぐりめぐって
水面をぬう小さな魚みたいだ

許してくれない
恋とは そういうものだ

遠くの方で
雷鳴がとどろいて

わたしは
君の次のひとことを
無言で 急かせる

ひと雨きそうだね、だなんて
君は 場を取り繕うけど

今日 私たちが
別れても

夕立で
洗濯物が 濡れてしまわないか

そんな 心配ばかりしているわたしは
本当に 冷たい

許してくれなくてもいい
恋とはそういうものだ

窓越しにみえる
鴨川の
ゆるゆるとした流れを

余裕ありげに
じっと見つめて

わたしは
君の目をみない

吸い込まれて
元のもくあみ、なんて
かっこ悪い

はりつめた空気を
わざとらしく 作り上げて

一刻もはやく
家に帰ることを考えている

わたしは
本当に 冷たいのだ

君が ためらいがちに つぶやいた
有りし日

わたしは
傷ついたふりをして
君に 無言で許しを乞う

ずるいわたしだから

鴨川の淵で
しらさぎが
小さな魚を飲み込んだのを

目のはしで
見やって

わたしは
さよなら、という言葉を飲み込む

別れ話さえも
君に任せきりだった
有りし日

夏は まだ始まったばかりだった

#詩 #詩を書く#詩作#ポエム

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